第15話 席替え
ギリギリに登校したからか、浩二が何かしたかはわからないけど……。
特に突っ込まれることもなく、ホームルームになり……。
「さて……今日の一限目は、このままホームルームの時間だ。めんどくさいが仕方ない」
「せんせー、本音出すぎ」
「私たちもめんどくさい」
「何すんのー?」
生徒から野次が飛ぶと……。
「みんなお楽しみ——席替えだ」
「うぉぉぉー!」
「俺、窓際がいい!」
「私は後ろがいいなー!」
「えー! このままでいいのに!」
「私もー!」
騒ぎ出す生徒達を尻目に、俺はため息を吐く。
「はぁ……」
伊藤という名前のおかげで、右端の一番前だから良かったのに。
授業に集中できるし、他の人達も視線に入らないから。
「賛否両論はあるだろうが、ゴールデンウィークが始まる前にやっときたいしな。明けたらすぐに中間テスト始まるしな。その後には体育祭もあるし……あっ、ちなみに面倒だからくじ引きにするからなー」
一部の生徒達からは、否定の声が上がるけど……助かる。
好きなもの同士とか、一番困るし……ぼっちにはしんどいよね。
浩二には、これ以上迷惑かけられないし。
「……後ろの方じゃなければいいかな」
できれば前の端っこが良いけど。
よく漫画とか小説だと……これで、綾崎さんが隣になったりするんだよね。
まあ、そんなことは起こらないけどね。
そんなことは起こらなかったけど……これは困ったなぁ。
くじ引きをして、番号の書かれた席を確認したら……一番後ろの列の真ん中の席だった。
それは仕方ないとして……。
「ギャハハ!」
「おいおい! まじかよ!」
「やった! 後ろだぜ!」
男子達は煩いし……。
「やったね! これでスマホいじれる!」
「爪もいじれるしねー」
「やばくない!?」
男子も、女子も……いわゆるリア充と呼ばれる人達が集まっちゃった。
はぁ……これから一学期の間、この席で過ごすのかぁ……嫌だなぁ。
男女バラバラの席だけど、仲良しグループの真ん中とか……。
「おい、和馬」
「浩二?」
いつの間にか、後ろから覗きこまれていた。
「お前の番号は……あちゃー、こりゃまずいわ」
「はは……困ったけど、仕方ないよ」
「ふむ……よっと」
「ちょっ——ん!?」
声を出そうとしたら、口を塞がれる!
そして、手のひらに何かを渡され……その中身を確認する。
「これって……」
「良いから黙っとけ」
「でも、こういうのは良くないよ」
「相変わらず、真面目なこと。だが、良いのか? あれじゃ勉強に集中できないぞ? 」
俺は、もう一度……後ろの席を確認する。
最初の中間テストは重要だ。
範囲が狭い分、点数も取りやすい。
ここで取っておくと、今後が楽になる。
特に推薦枠を狙ってる俺にとっては。
「……ごめん、浩二」
「なに、気にするなよ。俺も、あっちの方が楽で良い。俺が前の方とか、どんな罰ゲームだって話だ」
それだけ行って、俺が行くはずだった席に向かっていく。
……今度、しっかりとお礼しないと。
少し心苦しいけど、浩二が引いた席に座る。
一番左端の席で、窓から見える景色が良い。
これなら、勉強に集中できそうだ。
問題は、誰が隣になるかだけど……。
「よ、よろしくお願いします」
「こちらこそよろしくね」
良かった……普通の女子っぽい。
眼鏡をかけてて、ボブカットの女の子だ。
確か……萩原さんだったはず。
静かな子だし、これなら平気そう。
「ん……私には?」
「うひゃ!?」
せ、背中がくすぐったい!?
振り返ると……いつの間にか綾崎さんが座っていた。
「変な声」
「あ、綾崎さん? な、なにをしたの?」
「背中を突いてみた……伊藤君は背中が弱点と」
「メモしないでくれるかな? 誰だって、驚くよ」
「そう……初めてしたからわからない。それで、私には?」
「はい?」
「……もういい」
えぇ……何で不機嫌そうになったの?
というか、何となく感情がわかってきた気がする。
「あの……多分、よろしくって……」
「萩原さん?」
「私によろしくって言ったから……かなって」
……なるほど! そういうことか!
俺は振り返り……。
「綾崎さん、一学期の間よろしくね」
「……ん、よろしく」
すると、心なしか機嫌が良さそうになる。
……これはこれで、困ったことになったなぁ。
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