第73話 ヒロイン視点

 ……不思議な感じがする。


 私が、男の子とプールに来てる。


 しかも、ビキニを着るなんて。


 そういう視線に晒されてきたから、あんまり好きじゃなかった。


 でも、和馬君には可愛いって思われたい。


 水着に着替えながら、この間の出来事を思い出す。



 ◇


 夏休みに入った初日……。


 バイト代が余っていた私は、萩原さんを連れてお買い物に行った。


「夏休みだねー」


「ん、こんなに楽しい夏休みは初めて」


「……相変わらず可愛い!」


 そう言い、ぎゅっと抱きしめられる。

 何やら、最近はスキンシップが多い気がする。

 でも、嫌じゃない。


「可愛いのは萩原さん。私は、可愛くない」


「えぇー? そうかなぁ? 伊藤君だって、可愛いって思ってると思うよ?」


「ほんと? ……よくわからない」


 ある程度の年齢になった時から、私は男性の視線には敏感だ。

 告白もよくされたし、じろじろ見られることも多い。

 多分、私の容姿が男性から見て魅力的に映るのだろう。

 でも、和馬君だけは……よくわからない。


「えっ? 和馬君だって、たまに綾崎さんのことを見てるよ? 」


「でも、可愛いと思っているかはわからない」


「あぁーそういうことかぁ」


「たまに胸に視線がいくことは知ってる」


「あっ、知ってるたんだ」


「ん、それは知ってる。でも、何かが違う。ただ、それが何なのかわからない……嫌な気持ちにならない?」


 他の男の人とは、何かが違う。

 和馬君に見られていると、気持ち悪くない……むしろ、なんだが嬉しい。


「前も言ったけど、それが好きってことだよ。好きな人だから、見られても良いというか……恥ずかしいけど、嬉しいみたいな」


「恥ずかしいけど嬉しい……ん、そうかも。やっぱり、萩原さんは天才」


「そ、そんなことないよ! あとは、伊藤君がジロジロ見てこないからじゃないかな? もちろん見た目もあれだけど、きちんと中身を見てるっていうか……」


「ふんふん」


 そっか、そういうことだったんだ。

 だから、視線が嫌に感じない。

 私に対する気遣いがあるから……。


「ふふ、和馬君らしい」


「あっ! 今の顔見せたら可愛いって思われるよ!」


「ん? どういう顔?」


「あっ、変わっちゃった。えっと、つまりは……伊藤君に可愛いって思われたいってことで合ってる?」


 可愛いって思われたい? ……あぅ。


「……多分」


「はうっ!?」


「どうしたの? 平気?」


 急に胸を押さえてうずくまってしまった。

 どこが、痛かったのだろうか?


「だ、大丈夫……ちょっと尊かっただけだから」


「ん、なら良い……よくわからないけど」


「気にしないで! そうなると……プールに行くんだよね?」


「ん、約束をした。だから、今日はそれを買いに来た」


「あっ、そういうことだったんだね。じゃあ、可愛いのを選んで……可愛いって言ってもらわないと」


「ん……できるかな? 言ってくれる?」


「どうだろうなぁ〜伊藤君だし。でも、やってみないと」


「……ん、わかった。じゃあ、手伝ってくれる?」


「もちろん!」


 ◇


 その後、二人で水着の試着を繰り返してたっけ。


 それで、結果的にこの格好になった。


 いやらしくもなく、それでいて女性らしさもあって、清楚な感じに見えるように。


 さらにパレオタイプにして、可愛く見えるようにって。


「んっ、できた」


 鏡の前で確認をする……多分、平気。


 人々の視線を集めながら、更衣室のドアを開ける。


 ……和馬君、可愛いって言ってくれるかな?

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