第72話 到着

電車を降りたら、そこからは歩いて向かう。


降りる人も少ないし、やっぱり穴場かも。


「ここから、どれくらい?」


「十分くらいで着くかな」


「ん、わかった」


……そういや、二人っきりって久々だ。

最近はテストもあったし、いつもは妹がいるし。

しかも、今日はプール……いやいや、今から緊張してどうすんの。


「そ、そういえば、夏休みの宿題とかやった?」


「ん、ばつちし。もう、ほとんど終わってる」


「へぇ、そう……早くない?」


まだ夏休みに入って、五日くらいなんだけど?

俺なんか、まだ何もしてないんだけど?


「そ、それは……今までなら友達もいなかったから、することがなかった。だから、夏休みの宿題くらいしかすることがなかった。今回は色々予定があるのはわかってたけど、その癖が抜けなくて」


「なるほど、そういうことかぁ」


「ん、和馬君は?」


「いやぁ、全然終わってないよ。というか、綾崎さんと夏休みの宿題とかやりたかったなって」


「………んっ!?」


視線を向けると、何やら驚愕の顔に染まっていた。

……これは、そういうこと?


「まさか、考えてなかった?」


「……コクン」


どうやら、友達と夏休みの宿題という概念が存在しなかったらしい。

なんというか……綾崎さんらしいけど。


「ははっ!」


「むぅ……笑わなくても」


「ごめんごめん。じゃあ、冬休みの宿題は一緒にやろうか?」


「んっ! そうします。あと、夏休みの宿題を手伝います」


「えっと……じゃあ、教えてもらおうかな?」


「ん、任せて」


そう言い、両手の拳を握る。


その可愛らしい姿を見ていると、緊張がほぐれていく。





そして十分後、予定通りにプール施設に到着する。


周りにはほとんど何もなく、一際目立つ建物だけがある。


高い塀には覆われているが、天井が空いている屋外プールだ。


外からはウォータースライダーが見え隠れしている。


「室内の方が良かったかな?」


「ん、こっちの方がいい。その方が夏って感じがして」


「うん、気持ちはわかるかも。日差しの中で泳ぐ方が気持ちいいよね」


「ん、そんな感じ」


そんな会話をしつつ、受付を済ませ……。


「それじゃあ、また後で」


「ん、先に泳いでて良いから」


「いや、待ってるからゆっくり着替えてね」


「……ん」


恥ずかしそう俯いた後、更衣室に向けて歩いていく。


「さて、俺も早く着替えないと。穴場とはいえ、綾崎さんを一人にしたら大変だ」


男の俺はささっと準備を済ませ、先に入り口で待っていると……。


「お、おい? 見ろよ」


「うわぁ……すごいスタイル」


「グラビアモデルの人? めちゃくちゃ綺麗……」


人々の視線を浴びながら、綾崎さんがゆっくりと歩いてくる。


長い髪をサイドテールにまとめ、水色の水着を身にまとっている。


パレオタイプのビキニらしく、足元がひらひらと舞っている。


お椀型と言われる胸はとても綺麗で、逆にいやらしさを感じないくらいだ。


というか、女神のようだ。


「ん……まった?」


「………いえ」


俺は、その言葉を絞り出すだけで精一杯だった。

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