第71話 電車に乗る
……と、いけない。
ぼけっとして、見惚れてる場合じゃないや。
確か、しっかりリードした方がいいって言われたな。
「そ、それじゃあ、行こうか?」
「ん、ついていく」
俺の後を、綾崎さんがトコトコとついてくる。
そして改札を通って、電車を待つ。
えっと、こういう時は何を話せば良いんだ?
「きょ、今日は暑いね」
「ん、夏だから」
「そうだね、夏だし……」
……何を言ってるんだぁぁぁ!?
夏だから暑いに決まってるじゃないか!
だめだ、完全にテンパってます。
「……ん、楽しい」
「へっ? 何か楽しいことあった?」
「なんでもない。ん、電車きた」
「あっ、ほんとだね」
来た電車に、そのまま乗り込み……電車が走り出す。
「今日はどこに行くの?」
「えっと、新しくはないけど、綺麗なプールがあるところかな。ウォータースライダーとかあるし、結構人が少なくて穴場なんだよ」
言い方は悪いけど、少し古いらしい。
まだまだ綺麗だけど、次々と新しいプールができちゃうから仕方ないけど。
でも、人が少ない方が綾崎さんも楽かなと思って選んだ。
「和馬君は、行ったことあるの?」
「うん、あるよ。小さい頃に、両親に連れて行ってもらったり、中学の時に友達と行ったりしたよ。多分、子供にも安全だったはず」
「ん、それなら安心。というか、優香ちゃんは? 今日は連れてこなくて良かったの?」
「えっと……」
やっぱり、そこは聞かれるよね。
いや、実は内緒で来てるんだよなぁ。
多分、行くって言ったら『ついていきたい!』って言われちゃうし。
いや、我ながらひどいお兄ちゃんだなぁ……でも、今回は二人でって決めたから。
そうしないと、優香のお兄ちゃんから脱却できそうにない。
ただもちろん、優香のことも考えてある。
「ん、どうしたの?」
「いや、これは下見も兼ねてるんだ。まずは、二人で見に行って安全確認というか……もしよかったら、今度は三人できても良いし」
「ん、そういうこと。下見は大事……でも、少しさみしい」
「えっ? どういうこと?」
「ん、私はデートだと思ってた。でも、和馬君は下見って言った」
「……へっ? い、いや……合ってます……はい」
「ん、なら良かった」
そ、そっか、ちゃんとデートだと認識されていたのか。
てっきり、そういう認識を持たれてないかと思っていた。
「はは……」
「それよりも……」
何やら、綾崎さんが何かを求めるような視線を向けてくる。
そうだっ! 俺はまだ、肝心なことを言ってない。
「えっと……今日のワンピース似合ってるね」
「ん、これはお気に入り。萩原さんと一緒に買った」
「あっ、そういうことなんだ」
「ただ……ん」
「どうしたの? ……あっ」
今、この電車は冷房が効いてる。
多分、ワンピースで肩が出てるから寒いんだ。
俺は持ってきた上着を、綾崎さんの肩にかけてあげる。
「ど、どうぞ。俺、また使ってないから綺麗だし」
「ん、ありがとう……でも、和馬君の匂いする」
そう言い、上着に顔を埋めた後、軽く微笑んだ。
それを見た俺は、再び黙り込んでしまうのだった。
~あとがき~
明日から連続更新します。
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