第70話 待ち合わせ

 夏休みに入って数日後……待ちに待った日がやってくる。


 そう、綾崎さんとプールに行く日だ。


 準備を済ませた俺は、家を出て待ち合わせの駅へと向かう。






 到着すると、そこには駅前に一人佇む……青のワンピース姿の綾崎さんがいた。

 まるで、映画のワンシーンから抜け出したように綺麗な立ち姿で。

 長い黒髪は風になびいて輝き、本当に綺麗って感じだ。

 その周りでは、人々が遠巻きに眺めている。


「あれって、何かの撮影かな?」


「そうだよ、きっと。だって、綺麗すぎるもん。あれは、どう見ても恋人を待ってるシーンね」


「いや、周りにカメラないし一般の人だろ。おい、声掛けようぜ」


「無理だろ。釣り合いが取れないし」


「いやいや、ワンチャンあるって。さっきから、ずっと一人だし」


「……そうだな。もう少し待って誰も来なかったら行ってみるか」


 えっと、今から……この状況で声をかけなきゃいけないの?

 俺の格好なんて、ただのTシャツに薄手の上着を着て、下は短パンだっていうのに。

 ……いや、いつもこんな卑屈だからダメなんだ。

 見た目はどうにもならないけど、せめて格好だけはつけないと。

 この夏は、告白するって決めてるのだから。

 ひとまず勇気を出して、彼女に駆け寄っていく。


「あ、綾崎さん!」


「あっ、和馬君」


「ご、ごめんね、待たせて」


「ん、問題ない。私が早く来すぎただけ」


 口には出さないが、それはわかってる。

 なにせ、待ち合わせの時間は十時だったはず。

 ちなみに、今の時間は九時四十分である。

 俺としては、これでも早めにきたくらいだ。


「ちなみに、いつからいたか聞いても?」


「……九時」


「……へっ? よ、四十分も前じゃないか!」


 そりゃ、人だかりができるわけだよ!

 こんな美人な女の子が、ずっと一人で待ってるんだから。

 だから、撮影じゃないかって騒いでたのか。


「ん、そのくらい」


「一応確認なんだけど、時間を間違えたわけじゃないよね?」


「ん、間違えてない……ただ、楽しみだっただけ。家にいてもそわそわして、落ち着かなかった。だから、先に来て待ってた」


「そ、そうなんだ……だったら、連絡くれたら良かったのに」


「ん、そうすると迷惑かなって思って」


「そんなことないよ。その……俺だって楽しみにしてたし」


「……そうなの? 連絡して良かった?」


「うん、もちろん。次からは連絡……いや、そうすると待ち合わせの意味がないかも」


「……やっぱり、連絡しない」


「へっ? ど、どういうこと?」


「ん、待ってる時間も楽しいから……デートだなって思って」


「………」


 その台詞に、俺は何も言えなくなる。


 ひとまず、照れながら言った綾崎さんは、めちゃくちゃ可愛かったです。





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