第69話 ヒロイン視点

 あの日行った水族館から、私は少しおかしい。


 和馬君の顔を見ると、胸が痛くなったり……。


 考えたりすると、身体が熱くなってくる。


 だから、中々会いに行くことができなかった。


 一応、テスト期間って言い訳を使ってはみた。


 もちろん、両親に言われたのは本当だ。


 でも、一人で勉強してって言っちゃった……変に思われてたらどうしよう?


 自分で自分がわからない。


 好きになってもらいたいのに、全然別のことをしているような気がする。


 私は……どうしたらいいんだろう?







 結局、答えは出ないまま、期末テスト最終日を迎え……。


 勇気を出して話しかけたものの、よくわからない感じになってしまう。


 和馬君の顔は見れないし、胸が痛いし……でも、嬉しい。


「ん、というわけです。これは、一体どういうこと?」


「っ……!」


 テストも終わったので、放課後に萩原さんのお家に遊びにきた。


 そして、思い切って萩原さんに相談してみる。


 水族館に行ったあたりから、色々とおかしいことを。


 なのに、なんで萩原さんは両手で顔を抑えているのだろう?


「ん、どうかした?」


「ご、ごめんなさい……ちょっとまって……! と、尊いわ!」


「ん? どういうこと?」


 最近仲良くなって、萩原さんの不思議な点に気づいた。


 何やら、私が和馬君の相談をすると……興奮?してる気がする。


 部屋には恋愛物の本がいっぱいあるから、そういう話が好きなのかも。


「お、落ち着いて、私……私は見守るだけ……いや、そろそろもどかしくなってきたし……というか、もっと早く言ってくれたらよかったのに」


「ん、萩原さんの勉強の邪魔になるかと思って」


「あ、綾崎さん……いい子! なのに、私は……うん、決めた。えっと、確認しても良いかな?」


「ん、なんでも聞いて」


「綾崎さんは、伊藤君に会うと胸が痛いんだね? あと、よくわからないけど緊張する?」


「ん、大体それで合ってる」


「それって……好きだからじゃない?」


「ん、私は和馬君が好きみたい……」


「えっ? 自覚はあるの?」


「ん、この間気づいた」


「タイミングを逃しちゃった……! と、とりあえず……好きだから、苦しくなると思うの。この間、家に行った時に言ったよね? 好きになると、ドキドキしたりするって」


「ん、ドキドキはする。でも、苦しいのは知らない」


「そっか……えっと、多分だけど……解決方法はあるかな」


 やっぱり、萩原さんはすごい。


 私がずっと考えても分からなかったことがわかるみたい。


「ん、教えて」


「それは……伊藤君と恋人になっちゃえばいいのです」


「……恋人……そうすれば治る?」


「多分だけど……ただ、違う意味で苦しくはなるかな」


「ん、よくわからない……でも、私なんかが好きになっても良いの? 恋人になって欲しいって思っても良いの?」


 両親から、そういうモノを感じられなかった私が……。


 そっか……多分、私は怖かったんだ。


 自分なんかが、そんなことを考えていいのかわからなかったから。


「良いと思うよ。だって、それは自然なことだと思うから。その、上手くいくかはわからないけど……もう出会って3ヶ月以上だよね? それで好きになったなら、凄く素敵なことだと思う」


「……ん、少しずつ好きになった」


 初めは、ただの興味本位だった。


 あまりにお人好しで非効率だから、その行動原理を理解したかった。


 私には、ないものだったから。


 でも、出会ってから少しずつわかってきた。


 大事な人に優しくしたら、自分が嬉しいこと。


 そしたら、みんなが優しくしてくれたこと。


 それがまた、ものすごく嬉しくて心が暖かくなること。


 でも、私と彼は違う。


 彼は、それを自然にやっている。


 不器用だけど一生懸命で、ものすごく優しくて……。


 そんなところが……好きになった。


「ふふ、なら良いと思う」


「ん……あれ?」


 何か振動がしたので、スマホを見ると……和也君からだった。


「ど、どうしよう?」


「可愛い……」


「えっ?」


「う、ううん! えっと、とりあえず出たら良いと思う。あと、スピーカーにできる?」


「ん、わかった……もしもし?」


 緊張するけど、勇気を出してボタンを押す。


 そして、スピーカーも押してみる。


『あっ、もしもし? 綾崎さん、今平気かな?』


「ん、今は萩原さんの家にいる。何か用だった?」


『あっ、ごめんね。じゃあ、手短に……えっとさ、夏休み、何処かに遊びに行かない? その、綾崎さんが嫌じゃなければプールとか、夏祭りの屋台とか行って花火を見たり……あっ! 嫌なら良いんだ!」


 プール、屋台、花火……どれも、ここ最近は行ったことない。


 少し怖いけど、和馬君となら行ってみたい。


 何より、誘ってくれて嬉しいって気持ちが溢れてくる。


「行きたい。和馬君とプールとか、花火とか、屋台とか」


 自然と、その言葉が出てきた。


『ほんと? ……ならよかった。じゃあ、また後日連絡するね』


「ん、わかった」


 そこで、通話が切れる。


「ふふ、尊いです」


「ん? 萩原さん?」


「デートに誘われちゃったね?」


「……へっ? そうなの?」


「うん、どう聞いてもそうだったかな」


「……ん」


 私、デートに誘われたみたいです……嬉しい。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る