第66話 プレゼント

 ……あ、危ないところだった。


 イルカショーが終わり、優香が疲れたので帰ることになった。


 なので、例のプレゼントを渡さないといけないのに……。


 綾崎さんに、ほっぺにチューをされて、全てが吹き飛んだ。


 そのまま、帰りそうになったところで、ギリギリ思い出し……。


 俺はコインロッカーと、先ほどの店に向かう。


 そして、目当ての品を持って、急いで会計を済ませる。


 その二つの袋を持って、三人の元に戻る。


「はぁ……はぁ……おまたせ」


「お兄ちゃん! おっきい袋!」


「ああ、そうだな」


「ん、どうして二つあるの?」


「まあ、少し待ってね。優香、まずはこれをあげるね」


 イルカのぬいぐるみを取り出し、優香にてわたす。


「わぁ……! イルカさん!?」


「ああ、イルカさんだ」


「わぁーい! わぁーい!」


「ちなみにそれは、綾崎さんが買ってくれたんだぞ?」


「まあ、素敵ね。ほら、喜ぶ前に言うことあるでしょ?」


「お姉ちゃん! ありがとう!」


「ん……こっちがありがとう」


「はえっ? どうして?」


「ふふ、気持ちはわかるわ。優香、麗華ちゃんは、貴女が喜んでいることが嬉しいのよ」


「嬉しいお!」


「ん、私も嬉しい」


 そう言い、二人がぎゅーと抱き合う。


 ……おっと、見惚れてる場合じゃない。


「綾崎さん、よかったらこれ……」


「ん? ……これを私に?」


 俺が袋から出したのは、さっきおみやげ屋でみたサメのぬいぐるみだ。


 今、割と可愛いくて流行ってると、テレビでも言ってた。


「もらう理由がない」


「いやいや、そんなことないよ。普段からお世話になってるし、今日だって一緒に来てくれたし」


「お姉ちゃん! 今日は来てくれてありがとう!」


「そうよ、麗華ちゃん。本当にありがとうございます」


「私は、自分がしたかったから……」


「それと一緒だよ。俺は、君にあげたいんだ。お礼とか、そんなことは付け足しただけだよ。ただ、俺がしたいことをしてるだけだから」


「……あ、ありがとうございます」


 そう言い、恐る恐るぬいぐるみを受け取る。


「お姉ちゃん!わたしとおそろい!」


「ん、サメさんとイルカさんだけどお揃い」


「えへへー」


 その光景にほっこりしていると……母さんが俺の脇を突く。


「ちょっ!?」


「あんた、やるじゃない」


「……まあ、頑張ったよ」


「うんうん、中々ポイントが高いわね……ほら、見ればわかるでしょ?」


「うん」


 目の前で優香の相手をしている綾崎さんの顔は……。


 とっても可愛く微笑んでいる。


 それが見れただけで、俺としては満足だ。





 ◇


 家に帰ってきた私は、ぬいぐるみを抱えてソファーに座る。


 なんだろ? この感じ……ふわふわする。


「待って……私は、バイトを始めた」


 それは、お世話になってるあの家族に、お礼がしたかったから。


 それは、叶った。


 三人とも喜んでくれたし、お礼も言ってくれた。


「私は、参加するつもりはなかったのに」


 でも、嬉しかったし、楽しかった。


 あんなに、楽しかったことなんかない。


 誰かと水族館なんか行くのも初めてだったし……。


「それに……デートに誘ってもらえた」


 前に言われた時とは、何かが違った。


 全身が熱くなったり、よくわからない行動したり……。


「多分、とっても嬉しかった?」


 ……うん、多分そう。


 お土産選ぶのも楽しかったし。


「あと……なんで、あんなことしたんだろ?」


 全然、そんなつもりはなかった。


 なのに、気がついたら行動に出ていた。


 ……ほっぺにチューしちゃった。


「あぅぅ……」


 また、身体が熱くなってきた。


 やっぱり……これが好きってこと?


「……だとしたらどうすればいいの?」


 私なんかが、和馬君みたいな人を好きになっていいの?


 優しくて、あんなに家族にも恵まれて……。


 ……迷惑じゃないかな?


「でも、プレゼントくれた」


 あの時も、嬉しかった。


 心がぎゅーと締め付けられるような感覚に陥った。


 ……和馬君が、私のことを好きならいいのに。

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