第76話 ウォータースライダー

その後、ウォータースライダーに並ぶ。


その回りでは、小さな子供達がはしゃぎ回っている。


その姿を見ると、少し心にしこりができる。


……優香を連れてきてあげれば良かったかな?


でも、そうすると二人きりというか……中々、進展しなさそうだし。


「ん……優香ちゃん、連れてこよう」


「へっ?」


「今度は、優香ちゃんも連れてこようって言った……あっ、和馬君と二人きりが嫌とかじゃなくて」


「ううん、わかってるから大丈夫だよ。うん、そうだね。綾崎さんさえ良ければ、三人でこようかな?」


「ん、それが良い」


……そっか、綾崎さんも同じことを思ったのか。


そのことが、なんだかとても嬉しくなった。


同時に、そういう女の子を好きになって良かったって。





五分ほど待つと、俺たちの番となる。


ここのウォータースライダーは、ボートに乗って滑るタイプだ。


そして、その乗り物は……密着せざるを得ない二人乗りである。


「では、どうぞー。彼氏さんが前かな?」


「えっ? い、いや、あの……」


俺がどもっていると、綾崎さんが前に出る。


「ん、これは前の方がスリルありますか?」


「へっ? ……そうですね、前の方が迫力ありますかねー」


「じゃあ、私が前で。和馬君、それでいい?」


振り向いた綾崎さんの顔は、実に楽しそうだ。

まるで『フンスフンス』という感じで。

……なんか、緊張してる自分がバカらしくなってきた。

まあ、俺が前よりは良いか。

そうすると、後ろから抱きつかれる形になるし……それは危険だ。


「うん、それでいいよ」


「ん、ありがとう」


「それでは、女性からどうぞー」


指示に従い、綾崎さんが先に乗り、その後ろに俺が乗る。


当然ながら、綾崎さんの背中が俺にくっつく。


すると綺麗なうなじ目の前にきて、何やら良い匂いもする。


……あれ? こっちの方がまずくない?


「ん……もっと前に来ないと危ない」


「ちょっ?」


綾崎さんに引っ張られて、完全に密着状態になる。


「いきますよー……それ!」


その瞬間、ふわっとした感覚し……一気に滑り台を駆け下りる!


「うぉぉぉ!?」


「キャァァァ!」


綾崎さんが、普段聞かないような声を出す!


そして、そのままカーブを繰り返して……着水する!


「プハッ!?」


「んっ!」


「い、意外とスリルあったね」


「ん、面白かった」


……よし、ここは言ってみよう。


「綾崎さん、聞いたことない声出してたよ?」


「……そんなことない」


普段変わらないその顔が、羞恥に染まっていく。


……可愛い。


「いやいや、出てたよ」


「むぅ……いじわる」


……ぐはっ!? 無意識なのか、上目遣いで睨んでくる。


この破壊力はヤバイ……は。話を変えよう。


「も、もう一回乗るかな?」


「……んっ、乗る。今度こそ、声を出さない」


「それじゃあ、並ぼうか」


再び列に並び、もう一回やると……綾崎さんが、同じように叫ぶ。


するとまた、いじけた顔を見せてくれる。


……うん、めちゃくちゃ可愛いです。

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