第7話 一緒に歩く
……はて? 何故、ここに綾崎さんがいるのだろうか?
目の前にはとてつもない美人さんがいる。
朝にも関わらず、目元はぱっちり二重。
長い黒髪はサラサラで、朝の光の中輝いて見える。
ブレザーの上からでもわかる、そのスタイルの良さ。
両手を前に揃えて鞄を持ち、姿勢良く立っている。
「聞こえてる?」
「本物……?」
「偽物がいるの? 何処? 」
「いや、そういうわけじゃなくて……」
だ、だめだ……凡人の俺には理解が追いつかない。
何がどうなって、今ここに綾崎さんがいるんだ?
「お兄ちゃん?」
「どうしたのー?」
「ちょっ!?」
止めようとしたが、遅かった……。
二人が、玄関までやってきてしまう。
「あらあら! まあまあ!」
「きれいひと! お兄ちゃんのこいびとぉ?」
「何処で覚えたんだ? さとしくんか? 優香に向かってそう言ったのか?」
「こわいかおー」
「ぐぬぬ……やはり、一度顔を合わせるべきか」
「ふふ……」
「えっ?」
今、笑い声が聞こえたような……。
振り返ると、そこには無表情な綾崎さんの姿が。
なんだ、やっぱり気のせいか。
笑ったところなんか、誰も見たことないもんな。
「あら! いけない! 遅刻しちゃうわ! お嬢さん、息子のことよろしくね! 息子! 帰ってきたらお話があります!」
「ちょっと!?」
制止も虚しく、母さんは慌ただしく出て行った……。
はぁ……完全に勘違いされてるなぁ。
「お兄ちゃん、わたしもほいくえん」
「おっと、そうだったね」
「ごめんなさい、邪魔をするつもりはなくて……」
「い、いや、平気だよ……少し待ってて。とりあえず、歩きながら話そうか」
「うん、待ってる」
何これ? 夢? 可愛い女の子が、俺のこと待ってるとか。
というか……学校まで一緒に行くってこと?
ひとまず出かける準備をし、鍵をかけ……。
「お兄ちゃん、おててはー?」
「ああ、つなごうな」
「おねえちゃんはー?」
「お、おい」
「……繋いでも良いの?」
「いいよー!」
結果的に、二人で優香を挟んで手をつなぐことに……。
「れっちゅごー!」
「ん、れっちゅごー」
「いや、真似しなくても良いから」
「そうなの? でも、楽しいかも……」
その顔はぎこちないけど微笑んでるように見えた。
……へぇ、そんな風に笑えるんだ。
不覚にも……可愛いと思ってしまった。
その後、保育園まで歩いてくが……。
「あら……」
「まあ……」
「伊藤さんちのお子さんよね?」
「随分と美人さん連れて……」
「優香ちゃんもいるってことは、親公認ってこと?」
普段は気さくに話しかけてくれるご近所さんが、今は遠巻きに眺めている。
それこそ、俺が小学生の頃から知ってるような方達だ。
優香はご機嫌で鼻歌を歌って、全く気づいてないし。
「うわぁ……明日から、どんな顔して歩けばいい?」
「何か変?」
「いや、見られてるから……」
「大丈夫、そのうちなくなるから」
「どういうこと?」
俺が疑問を問いかけると……鼻歌を歌っていた優香が、手を強く握る。
「お兄ちゃん!」
「ん? どうした?」
「たのちいね! ママとパパみたい!」
「ママ……私が? でも、貴女には本当のママがいるわ。それに、私は子供を産んだことない」
「いや、真面目な顔して答えないでよ……ははっ!」
だめだ……! 真面目な顔して変なこと言うから笑いが……。
「むふー! お兄ちゃんが変!」
「そうね、変な人ね」
「じゃあ、お姉ちゃん!」
「お姉ちゃん?」
「ママじゃなくてお姉ちゃん! ……だめ?」
「…………」
綾崎さんが固まる。
そりゃ、そうだよ。
今日はたまたま来ただけなのに困るよね。
「こら、優香。無理を言っちゃだめだ。今日はたまたま来ただけなん」
「ううん、良い。お姉ちゃんって呼んで」
「はい?」
「ほんと!?」
「うん、明日もくるから」
「わぁーい!」
そう言い、とても嬉しそうにはしゃぐ妹。
さらに……物凄く自然に綾崎さんも——笑う。
その表情から、俺は目を離すことが出来なかった……。
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