第44話 なにも言えない

 結局、綾崎さんのチョコも食べさせられる流れになり……。


「ん、食べる」


「い、いらないです」


「ダメ。それは不公平」


「ふこうへい!」


「……はぁ、わかりましたよ」


「ん、それで良い……あーん」


「っ!?」


 一瞬で頭が沸騰したのがわかる……!

 なにこれ!? 無意識!? 狙ってるの!?

 ……というか、少しエッチに見えるのは仕方のないことでしょうか?


「ん、早くしないと溶けちゃう」


「……ええいっ!」


 邪念を振り絞って……パクッとチョコを食べる。


「美味しい?」


「……はい」


「ん、なら良かった。本に書いてあったのは正解だったみたい」


「本?」


「ん、男子はこうしたら喜ぶって書いてあった。これで一つ勉強になった」


「実験……さいですか」


 相変わらず、振り回されっぱなしの俺でしたとさ……。





 休憩が済んだら、再びお土産巡りをして……。


「お兄ちゃん! これ、パパとママに買うお!」


「遊園地限定のストラップかぁ……まあ、いいんじゃないかな」


 値段も安いし、腐るものでもないし。

 父さんが帰ってきたら……これだけで泣きそうだな。


「お姉ちゃんは!?」


「わ、私は……いい」


「どおして?」


「い、いや、その……」


 ……やっぱり、あまり関係が良くないのかも。

 というか……俺の目から見たらストラップを欲しがっているように見える。


「優香、俺たちくらいになったら親に買わない人もいるんだよ」


「そ、そうなの」


「ふーん? そうなんだ〜」


「代わりに友達同士で買ったりするね。というわけで、綾崎さん」


「えっ?」


「俺のを選んでくれるかな? 綾崎さんのを俺が選ぶから」


「……ん」


 そう言い、少しだけ微笑んでくれた。

 ほっ、どうやら間違ってなかったみたい。





 その後、買い物を済ませ……再びアトラクションに戻る。


 ……しかし、再び試練の時間のようです。


「い、いやぁ……ここはやめたほうが……」


「いや! ここはいるお!」


「ん、ここは年齢制限ない……何か問題ある?」


 ……お化け屋敷が苦手とは言えない。

 ただでさえ絶叫系で情けないところ見せてるのに。


「わ、わかったよ……よし、いこう」


 意を決して、中に入り……。







 次々と恐怖がやってくる。


 暗闇から飛び出る手、いつのまにか背後にいるゾンビ、上から降ってくる人。


「きやぁー!」


「ん、中々本格的」


「うぎゃぁぁぁ!?」


「きゃはは! お兄ちゃん変な顔!」


「ん、そっちのが怖いくらい」


「ほっといてよ!」


 何とか無事に終わり、再びベンチに座る。


 というか、俺が限界だった。


 しかし……優香も限界だったらしい。


「すぅ……」


「ん、寝ちゃった」


「まあ、普段ならお昼寝してる時間だから」


「……可愛い。私もこんなに可愛いかった? 私が可愛くないから……可愛げもない私は一人なのかな」


 その顔は暗く……俺は何も言えなくなってしまう。

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