第64話 プレゼント選び

 これは、あの時とは違う。


 あの時は、知り合って間もなかったし、綾崎さんのことを知りたかったし、自分が好きか確認したかった。


 でも、今回は好きという前提で申し込んでいる。


 ……あれ? 返事がない。


 俺が恐る恐る顔を上げると……そこには、顔を真っ赤にした綾崎さんがいた。


「……綾崎さん?」


「ん……それってどういうこと?」


「えっと、そのままの意味かな……綾崎さんと水族館を歩きたいなって」


「ん……嬉しい」


「そ、そっか……はは」


 だ、ダメだ……変な汗が出てくる。


「あらあら、若いっていいわね」


「にいちゃん、やるね」


「ねえねえ、あれは何してるの?」


 ……いつのまにか、人があふれていた。


「と、とりあえず、 行こうか!」


「んっ!」


 珍しく綾崎さんの声もうわずり、二人で慌ててその場を去る。






 ……ここまでくれば平気かな。


「えっと、何か見たいものあるかな?」


「ん、プレゼント見たい」


「プレゼント?」


「優香ちゃんに買ってあげたい。今ならチャンス」


「ああ、なるほど。確かに別行動だしね。じゃあ、行ってみようか?」


「ん、レッツゴー」


「……どうしたの?」


 なんだか、綾崎さんの様子がおかしい。


 いつもと少し違う気がする。


「ん、なんでもない。い、いこう」


「わ、わかった」


 動きがぎこちない綾崎さんと共に、おみやげ屋さんに入る。


「ん、たくさん置いてある」


「そうだね。結構色々ある」


 そこには様々なキーホルダーや、ぬいぐるみなどが置いてある。


 ある意味で、優香を連れ来なくて良かったかも。


 こんなところに来たら、興奮して時間がすぐに過ぎてしまいそうだ。


「……どれがいい?」


「うーん……どうだろ? キーホルダーはいらないだろうし、やっぱりぬいぐるみかな?」


「でも、どれも結構大きい。これを持ってたらばれちゃいそう」


「確かにそうかも。とりあえず、コインロッカーに預けておくかな」


「ん、いい考え。それなら帰りでも平気」


「じゃあ、綾崎さんが選んであげて」


「ん、頑張る」


 すると綾崎さんが、真剣な表情でぬいぐるみを見だす。


「ん、これも可愛い……どう?」


 そう言い、サメのぬいぐるみを抱いて、横から顔を覗かせる。


 ……はい、可愛いです。


 というか、めちゃくちゃ楽しい。


「可愛いですね」


「……ん、このぬいぐるみ可愛い」


「それにしますか?」


「でも、サメは怖いかもしれない……こっち?」


 次に手に取ったのは、 イルカのぬいぐるみだ。


「イルカか……うん、いいですね。元々、イルカショーを見に来たわけですし」


 これなら、優香はきっと喜ぶだろう。


「じゃあ、これにする」


「あっ、そっか……このためにバイトしてたのかな?」


 この間なんでバイトしてるか聞いた時に、他にも目的があるって言ってたし。


「……ん、違くないけど違う」


「違うないけど違う……なぞなぞかな?」


「ん、内緒」


 イルカのぬいぐるみに顔を埋めて、そのまま黙り込んでしまう。


 ……これは聞いても答えてくれなさそうだなぁ。


「わかった。じゃあ、もう聞かないよ」


「むぅ……難しい」


「はい?」


「ん……じゃあ、これ買ってくる」


 そう言い、レジに向かっていく。


「結局、なんだったんだろう? 俺に内緒ってことは、俺には言い辛いことなのかな?」


 それにしても、綾崎さん……多分だけど、サメのぬいぐるみ欲しがってたよな?


 値段はと……結構するなぁ。


 でも、買えない値段じゃない。


 どうする? 聞いてから買った方がいいのか?


 それとも、こういうのは後からサプライズの方がいい?


 というか、プレゼントしていいのかな?


「……よし、そうするか」


「どうしたの?」


「うわっ!? び、びっくりした……早かったね?」


「ん、そんなことない。和馬君もぬいぐるみ欲しい?」


「いや、そういうわけじゃないよ……キーホルダー買おうかな」


「ん、それも可愛い」


 このままだと、疑われてしまう。


 あとで、これも買うつもりだったし……今のうちに買っておくか。


 俺はペンギンのキーホルダーを手に取り、レジに向かう。


 そして、その一つを……。


「綾崎さん、これ良かったら……」


「私に?」


「うん、四つあるからさ。みんなでお揃いってことで」


「ん……ありがと……」


「そ、それじゃ、コインロッカーに入れにいこうか」


 どうやら、キーホルダーも喜んでくれたみたいだ。


 ……よし、あとは帰りにどうにかして抜け出さないと。




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