第17話 お弁当

 ……とりあえず、開けてみようか。


 二段式の青いお弁当箱を開けてみると……。


「どうかな……?」


「わぁ……凄いや。うん、とっても美味しそうだね」


 そこには、フレッシュトマト、きんぴらゴホウ。


 卵焼きや唐揚げなんかも入っていて、とても美味しそうだ。


 唐揚げの下には、レタスが敷いてある。


 下の段には海苔弁があって、真ん中に梅干しが埋まっている。


「ん……良かった」


「でも、大変だったんじゃない? この揚げ物とか……手作り?」


「ん、朝に揚げた」


「えっ? あ、あのさ、ここまでしてもらう理由がないんだけど……あっ——もちろん、迷惑かではなくて……」


 多少なりとも料理をするからわかる。

 これを作るのに、どれくらい時間がかかるかは。

 聞いておかないと……変な勘違いをしそうだし。


「……難しい」


「はい?」


「理由……なんだろ?」


「い、いや、聞いてるのは俺なんだけど……」


「じゃあ……迷惑かけたお詫び」


「今、『じゃあ』って言ったよね!?」


「ん……言ってない」


 よくみると……目が泳いでいる。

 意外とわかりやすい子なんだなぁ。


「絶対言ったよね?」


「クス……」


「あっ——笑った」


「……ほんと?」


 そう言い、ずいっと体を寄せてくる。

 ちかっ! 近いから! 顔小っさ!

 自覚ないのか、自然と胸が寄せられてるし!


「う、うん」


「そう……そうなんだ。じゃあ、お礼にしよう」


「はい?」


「貴方は、私の話を真面目に聞いてくれた。あと、楽しませてくれた」


「そうなの? 俺、つまらないってよく言われるけど……」


「うんん、楽しい……」


「そ、そっか……た、食べても良いかな!?」


 だめだ! 何かとてつもなく恥ずかしい!

 気のせいか、微笑んでるし!


「ん、時間がなくなるから食べて」


「い、いただきます——あっ、柔らかくて美味しい」


 お弁当なのに唐揚げはサクサクで、とても柔らかい。


「ん、マヨネーズ使ったから」


「そうなんだ? へぇ〜……うん、これも美味しい」


 卵焼きも固くなく、ふわふわだ。

 俺だと、いつも固くなっちゃうんだよなぁ。

 毎日、こんなの食べられたら……いやいや!


「……なに? 変な顔して」


「酷くない!?」


「質問に答えて」


「いや……毎日食べられる人は幸せだなぁって……ってそういう意味——」


「毎日作る」


「……えっ?」


「その代わり、感想を聞かせて。自分だと、よくわからない」


「それはいいけど……」


「あと……お友達になって欲しい」


 すると、耳まで真っ赤になる。

 そっか……友達が欲しかったのか。

 一人が好きなんじゃなくて。


「うん、良いよ。ただ、お弁当は作らなくて良いから。友達って対等な立場だし」


「……むぅ」


「何で怒ってるの?」


「……何でもない。少し、胸が苦しくなっただけ」


「た、大変だ!」


「へ、平気……! お腹空いただけ……!」


 そして、黙々と弁当を食べ始める。


 それを見て、俺も残りの弁当を食べる。


 ……青空の下で、誰かと食べるって美味しいんだね。

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