第61話 お出かけ

 六月の終わり近くになり、いよいよ水族館に行く日を迎える。


 なので……妹のテンションがやばいことになっている。


「優香、落ち着いて」


「はやくはやく! おさかな! イルカさん!」


「だから、イルカさんはわからないって」


「どおして!?」


「いや、昨日も説明したろ? 大雨が降ったら、もしかしたら見れないって」


 多少の雨なら問題ないが、今は梅雨の時期だ。


 万が一、見れなかったらダメージが大きいと思って伝えたはいいが……。


 おかげで、昨日も大変だった。


 ずっと『外を見てる!』って言って聞かないし。


「あら……今、止んだわね」


「ほんと!?」


「ええ、少しだけど晴れてきたわ」


「やったぁ!」


 ……ほっ、ひとまず安心だ。


 すると……タイミングよく、チャイムの音がする。


「あっ! お姉ちゃんだっ!」


「こら、走るんじゃない」


 興奮する優香を連れて、玄関から出ると……。


 かっこかわいい女の子……綾崎さんがいた。


 下は赤いロングスカート、上は白のTシャツに青のジャケットを羽織っている。


 髪型はポニーテールになってて、とても新鮮だ。


「ん……おはよ」


「お、おはよ……よく似合ってるね」


「っ……! あ、ありがとぅ」


 よし! 言えた!


「お姉ちゃん可愛い!」


「ん、優香ちゃんのが可愛い」


「かわいい!?」


 優香が、綾崎さんの前でくるりと回る。


「ん、この世界で一番可愛い」


「まあ、間違いないね」


「えへへー」


「ほらほら、そんなに甘やかしちゃだめよ。麗華ちゃん、今日はありがとね」


「い、いえ、私こそお邪魔してすみません」


「そんなことないわよ。私もタイミングがなくて、ちょうど良かったし。貴女がいた方が、二人が喜ぶもの」


「お姉ちゃんと行くの楽しみだったの!」


「ん、私も……和馬君も?」


「えっ? お、俺? ……そりゃ、楽しみだったよ」


「そうなんだ……ん、私も」


「あらあら、優香〜今日はお母さんと手を繋ごうかしら?」


「ママと!? うぅ……でも、お姉ちゃんとも繋ぎたいお!」


「そうすると、お兄ちゃんが余っちゃうわね? ひとりぼっちでどうしましょ?」


「母さん? 何言ってるの?」


「お兄ちゃんがひとりぼっちはかわいそう…あっ! お姉ちゃんとお兄ちゃんが繋げはいいんだ!」


「なるほどなるほど」


「母さん!?」


「ん、任せて。和馬君、行こう」


「ちょっと!? 綾崎さん!?」


 結局、彼女に手を引かれ、家を出ることに……。


 たまには、俺がリードしたりしたいけど……中々上手くいかないなぁ。


 このお出かけ中に、少しでも良いところ見せられたら良いけど……。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る