第46話 ヒロイン視点

 今ならわかるけど……物心ついた時には、すでに両親の関係はおかしかったかも。


 両親は滅多に会話しないし、ご飯も一緒に食べないし、共働きだったので私も一人で食べていたり……。


『早く自分のことは自分で出来るようになりなさい』が、両親の口癖だった。


 あとは友達も作ってはいけないし、勉強や読書をしてなさいと私に言ってきたり……。


 色々と質問すると……物凄く嫌な顔をされたことはよく覚えている。


 今思えば、多分……家に連れてこられたり、よその家のことを知られるのが嫌だったのかもしれない。


 だから、私は自分の家が変だということにも気付かずに過ごしてきた。


 別に不幸だとも思ったことはない……だって、それが普通だと思ってたから。


 一人で過ごすのは慣れていた……みんな、私と話すと変な顔をするから。


 別に勉強も、本を読むことも楽しかったし。


 何より勉強が出来たり、静かに本を読んでいれば……母や父は怒鳴らなかったから。





 転機は、私が中学二年生に上がった頃に起きた。


 両親は声を荒げて喧嘩するようになり、だんだんと家に帰ってこなくなった。


 元々両親と会話してこなかった私は、どうしていいかわからない。


 ただ私も中学生になっていたので、自分で出来ないことが少なくなった。


 掃除、洗濯、料理、買い出しやお金の計算……ほとんどのことが出来るようになった。


 そうして私が頑張れば……良い子でいれば……両親は仲直りするかなって。


 すると、ますます両親は帰ってこなくなった……今思えば多分、世話をする必要がないから。





 そしてマンションを購入した高校入学前に伝えられた。


 お互いに一目惚れだったという両親の仲は、とっくに冷め切っていると。


 そして、元々私にも特に愛情はないと。


 今までは、二人共我慢して生活してきたと。


 世間体のため、私が義務教育を終えるまではと。


 そして……これからは、双方新しい家族のところに行くと。


 私にはこのマンションをあげるので、ここで暮らしなさいと。


 世間様に迷惑をかけなければ、好きにして良いと。


 お金も毎月振り込むし、学校の面談なんかは行くと。


 後は、病気になれば連絡しろと。


 たった五分ほどの説明で終わり……両親は去っていった。


 ……私は何も言い返すこともできずに、ただ黙って聞いていただけだった。


 そして……涙が流れることもなかった。







「以上が、私のつまらない話……小説とかでもよくある話……特段珍しいものでもないし、むしろ恵まれてる。だってお金はあるし、住むところもある……だから……寂しくもない」


 ……あれ? 反応がない?


 怖くて、顔をあげることができない……。


 やっぱり、つまらない話だったよね……。


 こんな話、するんじゃなかった。


 また嫌われる……。


「今のは……わ、忘れて……」


 私が勇気を出して、顔をあげると……彼は泣いていた。


 そして……気がつくと、私は強く抱きしめられていた。










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