第49話 お泊り?
その後、綾崎さんをリビングに連れて行き……。
「お、お邪魔します」
「ええ、いらっしゃい」
「優香は……まだ寝てるね」
「じゃあ、今のうちに料理作っちゃうわね」
「あ、あの……私手伝っても良いですか?」
「あら! 助かるわ!」
「じゃあ、俺は風呂掃除でもしてくるよ」
「そうね、お願い」
綾崎さんがキッチンに向かい、何やら母さんと話している。
その姿を見届け、俺も風呂掃除に向かうのだった。
◇
……緊張する?
「じゃあ、野菜を切ってもらえるかしら?」
「はい」
私が野菜を切る横で、和馬君のお母さん……弥生さんがいる。
それが何だが……とてもむず痒い。
でも、同時に……安らぎを感じる。
「うん、上手ね」
「そ、そうですか?」
「ええ、これならいつでもお嫁にいけるわね」
「……ほんとですか?」
野菜を切る私の手が止まる。
ありきたりなセリフだとわかっていても、どうしても聞き流すことができなかった。
「ええ、もちろんよ」
「……私、父親と母親がいないんです」
「……そうなのね」
「す、すいません……こんな話……」
顔や表情が和馬君に似ているからか、つい気が緩んでしまう。
「ううん、良いのよ……良かったら、少し聞かせてくれる?」
「は、はぃ……」
私は野菜を切りながら、ポツポツと話し出す。
和馬君に言ったことと同じような内容を……。
「だから……こんな私が母親とか……誰かのお嫁さんになれるのかなって」
「そうなのね……そうね……私から言えることは大丈夫ってことね」
「えっ?」
「私も両親いないから。でも、お母さんやってるわ。もちろん、まだまだ半人前だけど」
その顔からは悲壮感は見えないし、嘘を言っているようにも見えない。
「そ、そんなことないです! 和馬君も優香ちゃんも優しくて……とっても良いお母さんなんだなって」
「あら、ありがとう。ご家族のことは、その人たちにしかわからないからなんとも言えないけど……私から見たら、貴方は大丈夫よ……うん、その気持ちさえあれば平気だから」
そう言い、頭を撫でてくれる。
それは……私がずっと求めてやまないものだった。
◇
俺が風呂掃除から戻ると……。
「あらあら!」
「ふふ、そうなんですよ」
何やら、先ほどより親密そうな二人がいる。
まあ、母さんは察しがいいからなぁ……きっと何か言ったのだろう。
俺はあえて参加せずに、優香の寝顔を眺めるのだった。
その後、優香が起き……。
「あれ!? お姉ちゃんいる! どおして!?」
「ん、お邪魔してます」
「よくわかんないけど……わぁーい!」
「ほら、起きたなら顔でも洗いなさい。もうすぐご飯よ」
「あいっ!」
タタタっと洗面所に向かう。
「ほら、あんたも。お箸や食器を用意して」
「はいはい」
準備が整ったら、皆で食事をする。
「いただきます」
「「いただきます」」
「いたーきます!」
今日のメニューは肉野菜炒めと、味噌汁とお漬け物だ。
母さんは休みだし、手軽にして良いって言ったしね。
「ごめんなさいね、簡単なもので」
「いえ、美味しいです……本当に……いつも一人なので」
「そうね。一人で食べるより、みんなで食べた方が美味しいわね」
なるほど……やっぱり、母さんが聞き出したのか。
相変わらず、そういうことは目ざといんだよなぁ。
「お姉ちゃんは一人?」
「あっ、いや、今日は両親がいないってこと」
「わたしもパパいない! お姉ちゃんも寂しい?」
「……ん、そうなのかも」
「じゃあ、今日はわたしが一緒に寝てあげるお!」
「あら! 良いわね!」
「えっと……?」
「はい?」
えっ? 今なんて言った? 一緒に寝る?
「お泊まりってことね」
「……へっ? い、いえ、それは流石に……」
「もちろん、迷惑なら平気よ〜」
「お泊りだぁ……!」
「ん……よろしくお願いします」
……はい?
どうやら……綾崎さんがうちに泊まるそうです。
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