第49話 お泊り?

その後、綾崎さんをリビングに連れて行き……。


「お、お邪魔します」


「ええ、いらっしゃい」


「優香は……まだ寝てるね」


「じゃあ、今のうちに料理作っちゃうわね」


「あ、あの……私手伝っても良いですか?」


「あら! 助かるわ!」


「じゃあ、俺は風呂掃除でもしてくるよ」


「そうね、お願い」


綾崎さんがキッチンに向かい、何やら母さんと話している。


その姿を見届け、俺も風呂掃除に向かうのだった。









……緊張する?


「じゃあ、野菜を切ってもらえるかしら?」


「はい」


私が野菜を切る横で、和馬君のお母さん……弥生さんがいる。

それが何だが……とてもむず痒い。

でも、同時に……安らぎを感じる。


「うん、上手ね」


「そ、そうですか?」


「ええ、これならいつでもお嫁にいけるわね」


「……ほんとですか?」


野菜を切る私の手が止まる。

ありきたりなセリフだとわかっていても、どうしても聞き流すことができなかった。


「ええ、もちろんよ」


「……私、父親と母親がいないんです」


「……そうなのね」


「す、すいません……こんな話……」


顔や表情が和馬君に似ているからか、つい気が緩んでしまう。


「ううん、良いのよ……良かったら、少し聞かせてくれる?」


「は、はぃ……」


私は野菜を切りながら、ポツポツと話し出す。

和馬君に言ったことと同じような内容を……。


「だから……こんな私が母親とか……誰かのお嫁さんになれるのかなって」


「そうなのね……そうね……私から言えることは大丈夫ってことね」


「えっ?」


「私も両親いないから。でも、お母さんやってるわ。もちろん、まだまだ半人前だけど」


その顔からは悲壮感は見えないし、嘘を言っているようにも見えない。


「そ、そんなことないです! 和馬君も優香ちゃんも優しくて……とっても良いお母さんなんだなって」


「あら、ありがとう。ご家族のことは、その人たちにしかわからないからなんとも言えないけど……私から見たら、貴方は大丈夫よ……うん、その気持ちさえあれば平気だから」


そう言い、頭を撫でてくれる。


それは……私がずっと求めてやまないものだった。







俺が風呂掃除から戻ると……。


「あらあら!」


「ふふ、そうなんですよ」


何やら、先ほどより親密そうな二人がいる。

まあ、母さんは察しがいいからなぁ……きっと何か言ったのだろう。

俺はあえて参加せずに、優香の寝顔を眺めるのだった。




その後、優香が起き……。


「あれ!? お姉ちゃんいる! どおして!?」


「ん、お邪魔してます」


「よくわかんないけど……わぁーい!」


「ほら、起きたなら顔でも洗いなさい。もうすぐご飯よ」


「あいっ!」


タタタっと洗面所に向かう。


「ほら、あんたも。お箸や食器を用意して」


「はいはい」


準備が整ったら、皆で食事をする。


「いただきます」


「「いただきます」」


「いたーきます!」


今日のメニューは肉野菜炒めと、味噌汁とお漬け物だ。

母さんは休みだし、手軽にして良いって言ったしね。


「ごめんなさいね、簡単なもので」


「いえ、美味しいです……本当に……いつも一人なので」


「そうね。一人で食べるより、みんなで食べた方が美味しいわね」


なるほど……やっぱり、母さんが聞き出したのか。

相変わらず、そういうことは目ざといんだよなぁ。


「お姉ちゃんは一人?」


「あっ、いや、今日は両親がいないってこと」


「わたしもパパいない! お姉ちゃんも寂しい?」


「……ん、そうなのかも」


「じゃあ、今日はわたしが一緒に寝てあげるお!」


「あら! 良いわね!」


「えっと……?」


「はい?」


えっ? 今なんて言った? 一緒に寝る?


「お泊まりってことね」


「……へっ? い、いえ、それは流石に……」


「もちろん、迷惑なら平気よ〜」


「お泊りだぁ……!」


「ん……よろしくお願いします」


……はい?


どうやら……綾崎さんがうちに泊まるそうです。



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