幼馴染勇者パーティを追放された回復術師、実は世界最強 ~聖女を凌駕する魔術と、勇者を打ち負かす剣術で成り上がる~

真弓 直矢

第1章 追放と再起

第1話 勇者パーティ追放

「《回復術師》クロード、お前は今日限りでパーティを抜けてもらう」


 早朝、俺は高級ホテルのロビーに呼び出された。

 その上で、パーティリーダーである《勇者》ガブリエルから、追放処分を告げられた。


 何故だ?

 俺とガブリエルは、幼馴染で親友だったはずなのに。

 魔王討伐のためにパーティを結成したはずなのに。

 「生まれたときは違えど、死ぬときは同じだ」と誓ったはずなのに。


 追放宣告は悔しいが、しかし関係性を壊さないように、俺は冷静に質問する。


「──理由を聞かせてもらえるか?」

「《聖女》ジャンヌが新しく入ったから、下位互換のお前はもう用済みなんだよ」

「うふふ、可哀想……そこまで言わなくてもいいじゃありませんか……」

「事実だからいいんだよ、ジャンヌ」


 ガブリエルはそう言うと、隣にいる女性の肩に手を置いた。

 《聖女》の天職を持つ彼女──ジャンヌは、一週間前くらいにパーティに入ってきた女性だ。


 《天職》とは、その人がどんな人生を送るかの指針となるものである。

 例えば俺の天職である《回復術師》は、回復魔術を始めとする白魔術の扱いに長けているが、攻撃性の高い黒魔術は一切使えない。

 一方で《聖女》は、回復魔術だけではなく光属性の黒魔術も使え、攻守万能である。


 確かに俺が、ジャンヌの下位互換と言われるのは当然だが……


「ガブリエル、君は俺の回復魔術に助けられてきたはずだ。この前、もげた片腕を治してあげただろう?」

「え、えええええっ!? ガブリエルさん、それはほんと──」

「二度とあんなヘマしねえよ。あれはお前が黒魔術を使えていたら防げた事故なんだ──それに切断部位の治療くらい、ジャンヌでもできるだろ? な?」

「えっ!? ──は、はい……それくらいできます……なにせ私は《聖女》、神に選ばれし人間なのですからっ」


 ガブリエルの問いかけに、ジャンヌは何故か顔を真っ青にしながら挙動不審気味に答えた。

 だが《聖女》なら伝承通り、切断部位を癒すことは容易いのだろう。

 俺が治療する場合、それなりの代償を支払うことになるというのに。


 ガブリエルはジャンヌの答えに満足気にうなずいたあと、続ける。


「それになクロード、回復魔術ならジャンヌだけじゃなくてエレーヌでも使えるし、何だったら傷薬だけで十分だ。むしろ傷薬のほうが、人件費がかからないから安上がりなんだよ」


 エレーヌは勇者パーティに属する《賢者》の少女であり、俺の幼馴染でもある。

 《賢者》は黒魔術と白魔術の両方を使いこなせ、《聖女》と同じく攻守万能である。

 つまりエレーヌもまた、俺の上位互換とも言える。


 それにしても、何故かエレーヌの姿が見えない。

 恐らくガブリエルは、俺の追放が完了するまで隠し通すつもりなのだろう。

 そして追放したあと「クロードのやつはビビって逃げた」と誤魔化すつもりに違いない。


「その上、《聖女》が新しく入ったから回復魔術は飽和状態だ──だからクロード、最弱職のお前はいるだけ邪魔なんだよ。一人で戦えないヘタレ男は守りたくねえ」

「分かった──じゃあ俺の強さを証明できれば、追放は取り消してくれるんだな?」

「ああ。それじゃ俺と剣術で決闘しろ。ま、お前みたいなザコが俺に勝てるとは思わないけどな」

「クロードさん、せいぜいがんばってくださいね? ……うふふ」


 俺・ガブリエル・ジャンヌの三人は、ホテルの外へ出た。



◇ ◇ ◇



 街中の、少し広めの公園にて。

 俺とガブリエルは木剣を構え、ジャンヌはそれを見守っている。


 《勇者》は聖剣を唯一使えるとされる天職で、身体能力が非常に高い。

 一方の《回復術師》は武術や身体能力が、《商人》や《メイド》といった非戦闘系天職と大差ない。


 普通に考えれば、俺がガブリエルに勝てる道理はない。

 だが──


「行くぞ!」


 ガブリエルは素早く踏み込み、間合いを詰めてきた。

 腕のしなりを活かし、大きく剣を振り下ろしてくる。

 

 俺はそれを剣で受け止め、鍔迫り合いとなる。


「バカめ! 《回復術師》が力比べで俺に勝てるわけがない!」


 ガブリエルの言う通り、確かに俺の腕は限界だ。

 なので俺は一気に力を緩める。


「なっ!? ──ぐはあっ!」


 バランスを崩したガブリエルの胴に、俺は木剣を叩き込む。

 気持ちのいい音が鳴り響くとともに、ガブリエルは膝を折った。


 それにしても手応えがない。

 ガブリエルってこんなに弱かったのか?


 いや、ただ単に油断していただけで、本当の力を発揮すれば俺を押し倒すことくらい容易いはずだ。

 なにせ彼は《勇者》、最強の天職なのだから。


 ガブリエルは胴を押さえながら、悔しそうにつぶやく。


「な、なんで俺が……クロードごときに……!?」

「子供の頃から、俺がバカみたいに剣を振ってたのを忘れたんだな。まあ、君が前衛としてがんばっていてくれたから、俺の剣術の出番はなかったんだが……」


 子供の頃、俺は《剣聖》である父親に憧れていた。

 《剣聖》はどの天職よりも剣術に優れている、とても希少な天職だ。

 ちなみに《剣士》という天職もあるが、そちらはかなりありふれた天職で、《剣聖》よりは格が劣る。


 俺は《剣聖》になるために剣術を必死に学び、筋トレやランニングもして体を鍛えてきた。

 だが結局努力は実らず、俺は成人時に《回復術師》の天職を得てしまったのだ。


『──嘘だ嘘だ嘘だ……俺があんな奴に負けるはずがない……あいつを追放できなければ俺は……』

『──そんな……《勇者》が負けるだなんてありえません……クロードさんがパーティにいたら……どうしましょう……』


 ガブリエルとジャンヌはそれぞれ、うわ言を呟いている。

 俺には一切聞き取れないような小声で。


 だが俺は一切気にせず、問いを投げた。


「これで、俺の追放を取り消してくれるな?」

「い、嫌だ! さっきも言ったが、お前はもう用済みなんだ!」

「ガブリエルさん……そう、そうですよ! 回復は《聖女》である私がいれば十分ですし、前衛もガブリエルさんだけで十分ですっ!」


 もういい。

 約束を破る奴と、一緒になんていられない。

 俺が勝負に勝ったら追放処分を取り消すという話だったのに、それを反故にされてはたまらない。


 ガブリエルたちは必死に俺を追い払おうとしているが、むしろこっちがバカらしくなってきた。


「分かった。パーティから抜けるよ──さようなら、ガブリエルさん、ジャンヌさん」

「えっ!? ──あ、ああ……出てけ出てけ!」

「ク、クロードさんのさらなるご活躍をお祈りいたします……」


 俺はガブリエルとジャンヌのもとを離れる。

 彼らにどういう事情があるのかは知らないが、一緒にいないほうがお互いのためだ。


 だが、せめてエレーヌにだけはちゃんと挨拶したかったな。

 彼女もまた勇者パーティのメンバーであると同時に、大切な幼馴染だったんだ。


 とりあえず俺は、さっさと荷物をまとめてパーティを去ることに決めた。

 魔王討伐など忘れて、夢だった「世界最強の冒険者」を目指して自由に生きることにした。

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