第56話 仲間たちの奮闘と昼食

 決勝トーナメント第1回戦・第4試合……

 俺・エレーヌ・レティシアは観客席にて、ルイーズ王女の試合を見届けていた。


「《火よ、矢となりて彼の者を貫け》」


 対戦相手の魔術師は、一度の詠唱で10本もの火箭を生成し、一気に放つ。

 だがルイーズ王女は、その一つ一つを剣ではたき落とした。


 相手の攻撃を弾き返す──

 どうやら俺との訓練の成果が、魔術師との戦闘にも生かされているようだ。

 俺は師として嬉しく思う。


「な、なにっ──ぐああああああああっ!」


 ルイーズ王女は一気に間合いを詰め、対戦相手の魔術師を一刀両断した。

 闘技場にかけられた「精神力を代価とした自動回復魔術」が発動した魔術師は、泡を吹いて気絶した。


 審判員は対戦相手の魔術師の顔を確認し、そして右腕を高く振り上げる。


「対戦相手の気絶確認。よって第1回戦・第4試合の勝者は、《勇者》ルイーズ王女殿下とする!」

『──勝者、《勇者》ルイーズ王女殿下!』

「うおおおおおおおおおおっ!」

「流石は王女様だぜ!」

「美人で強いとか……無敵だろ!」


 アナウンスとともに、観客たちが歓声を上げる。

 するとルイーズ王女は、国王陛下が座っている方角を向き、頭を下げた。


「ルイーズ王女殿下、おめでとうございます!」

「カッコよかったですっ!」


 レティシアとエレーヌが大声を上げると、ルイーズ王女はこちらを向いて大きく手を振った。

 俺もルイーズ王女に向けて、大きく手を振り返す。


「クロードくん、ルイーズ王女と準決勝で当たりそうだね!」

「ああ、そうだな。楽しみだ」


 そう、エレーヌの言うとおりだ。

 配布されたトーナメント表によると、運が良ければ次々回の準決勝でルイーズ王女と戦うことになる。


 ちなみにレティシアとは、決勝戦まで進まないと戦えなさそうだ。

 まあ俺も彼女も、両方とも勝てる器だとは思うが……


「私はクロード、あなたを応援していますからね」

「ありがとう。レティシアもがんばってほしい」

「はい。決勝戦で会いましょうね」


 俺とレティシアは必勝を誓う。

 そう、仲間同士であるがゆえに、この王国武闘会が雌雄を決する機会となるのだ。



◇ ◇ ◇



 そしてそれからしばらく経ち……

 第1回戦・第8試合──すなわちレティシアの戦いの真っ只中だ。


 対戦相手である騎士の剣を、レティシアはすべて槍でいなしていく。

 訓練において、俺の剣を長時間に渡って防いだのだから、当然といえば当然だ。


 そして──


「ぐはっ! ──こ、降参だ……!」


 レティシアの槍は、騎士の太ももを貫く。

 騎士がこの時点で降参したのは、良い判断だと俺は思う。


 審判は右手を天高く掲げ、宣言する。


「対戦相手の降参確認。よって第1回戦・第8試合の勝者は、《聖騎士》レティシアとする!」

『──勝者、《聖騎士》レティシア選手!』

「うおおおおおおおおおおおおっ!」

「かわいいいいいいいっ! けどめちゃくちゃ強えええええっ!」

「やべえぞ……レティシア選手、優勝しちゃうんじゃねえのか!?」

「いえ、ダークホースのクロード選手がいるわ! 彼がどう出るか楽しみね!」


 アナウンスにより、観客たちは例に漏れず歓声を上げる。

 一通り試合を見ていて思ったのだが、女性選手が勝利したときのほうが観客の興奮度は高い。

 観客の多くは男性なので当然だし、なにより華があってかつ強い女性に惹かれるのも必然だ。


「やったね、クロードくん!」

「ああ、そうだな!」


 エレーヌは指を絡ませる形で俺の両手を握り、大はしゃぎしていた。

 俺は条件反射的に指を動かし、エレーヌの手をがっちり固めてしまう。


 仲間であるレティシアが勝利して嬉しいのは分かるが、少し恥ずかしい。


 その証拠に「あの二人って付き合ってるのかな?」とか「熱々カップルって羨ましいわ」などと言われてしまった。

 一応俺たちは幼馴染で大切な友達であって、恋人関係ではない。


『──只今をもちまして、第1回戦・全8試合が終了しました。これから2時間ほど、お昼休憩となります。準々決勝は今から2時間後です』


 昼休憩のアナウンスが流れる。

 すると観客たちは各々ランチボックスを広げたり、スタジアムグルメを買いに行くために席を立ったりと、忙しなく動き始めた。


 レティシア……早く来てくれ……!

 あまりエレーヌと二人きりでいると、からかわれてしまう……!


 俺はそう思いながら、彼女の到着を待った。



◇ ◇ ◇



「クロード、エレーヌ!」


 それから約十分後……

 ようやくレティシアが現れた。


 これで、エレーヌと二人きりにならなくて済む。

 近くの観客たちにからかわれない──俺はそう思っていた。


「うおおおおっ! レティシア選手じゃねえか!」

「うわあ……めちゃくちゃかわいい……なんで今まで気づかなかったんだ……!」

「まあ無理もないわよ……だってこの闘技場って収容人数5万人なんでしょ?」


 レティシアが観客席に戻ってきた途端、観客たちが熱狂した。


 ちなみにこの武闘会では選手控室は用意されていないし、むしろその方が都合がいい。

 なぜなら次の対戦相手の戦法を確認して、作戦を練られるからだ。


 だが選手が近くにいるからといって、観客たちは決して選手たちになだれ込んだりはしない。

 なぜなら観客席を巡回している警備員が何人もいて、目を光らせているからだ。


「レティシア、準々決勝進出おめでとう」

「やっぱりレティシアちゃんは強いね!」

「ありがとうございます……ふふ」


 レティシアは俺の隣に座る。

 すると甘い香りがふわりと漂ってきた。


「うおっ……レティシア選手の隣にいるあの男って、さっきちっちゃい女の子とイチャついてたよな……」

「両手に花ってやつだな……かーっ! 羨ましいぜ!」

「あんたたち……」


 そう、今の俺はまさしく両手に花の状態だ。

 俺の右隣にはエレーヌ、左隣にはレティシアがいる。

 エレーヌと二人っきりにならなければからかわれないと思っていた俺だったが、どうやらそれは誤算だったようだ。


 ──っていうか、イチャついてはいないだろ。


「さ、みんな。お昼にしよ? わたし、サンドイッチ作ってきたんだ」

「ありがとうございます!」

「楽しみだ」


 エレーヌはランチボックスを取り出し、蓋を開ける。


 俺とレティシアはまだまだ試合が続くので、サンドイッチという軽食は都合がいい。

 それにエレーヌの手料理とあれば、宮廷料理を放り出してでも食べたいと俺は思っている。


「クロード……あの、すみません……」

「どうした? レティシア」

「私、先程槍の柄を強く握りすぎたせいか、重い物が持てなくなってしまって……」


 レティシアが唐突に、申し訳無さそうに不調を訴えてきた。

 彼女の腕前ならば、そんな初歩的なミスをするはずがないのだが……

 まあ、5万人もの観客に見られていたわけだから、緊張したのかもしれない。


「分かった、今から回復魔術を──」

「あ~んしてくださいませんか?」

「え……」


 レティシアのお願いは、驚くべき内容だった。

 こんなに人がたくさんいる場所であ〜んとは、いくら怪我人が相手とはいえいくらなんでも無茶がすぎる。


 エレーヌも観客も、みんながみんな驚きの表情を見せていた。

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