第2章 世界最強を取るか、恋愛を取るか

第40話 王都と公爵家別荘

 大都市ローランを出て約1週間後……

 俺・エレーヌ・レティシアの三人を乗せた馬車はついに、王都の城門をくぐり抜けた。


「うわぁ……ここが王都……」


 エレーヌは車窓を眺め、うっとりしている様子だった。


 きらびやかな建物に多くの人々。

 大都会であることに違いはないのだが、街路樹もそれなりに植えられており、人工物と自然の調和が取れている。

 また、広場には噴水があり、とても涼しげである。


「エレーヌ、王都はいかがですか?」

「すっごくきれいだね! ──ああ、でも人が多いのはちょっと……あう……」

「大丈夫ですよ。私とクロードが一緒ですから」

「うん……そうだね。ありがとう、レティシアちゃん」


 1週間前、レティシアに「呼び捨て・タメ口で話してほしい」と頼まれて以来、俺たちの距離は縮まったと思う。

 まあ、今でも公爵令嬢にそのような口の利き方をするのは良くないとは思うが、本人の「ご命令」とあらば仕方がないのだ。


 ちなみにレティシアは誰に対しても丁寧な口調なので、どれだけ仲良くなっても崩すことはないらしい。

 その代わり、彼女の表情や態度がさらに柔らかくなった気がする。


「クロードはいかがですか? 王都の街並みは」

「人々の活気が、他の街と比べて違うな。特に、俺の田舎とは比べ物にはならない」

「クロードは人混みの中でも、物怖じしなさそうですね」

「ああ、自分に自信があるから……といったところか」


 俺は今まで、様々な悪意と戦ってきた。


 《剣聖》を父に持っていたから、「親の七光り」と陰口を叩かれた。

 その父から剣術を学んだにも関わらず、魔術師系の天職である《回復術師》を授かり、「七光もこれで終わりだな」とバカにされた。

 《回復術師》は最弱職だから「雑魚はいらない」「《回復術師》は女がなるもの」と拒絶された。


 そんな俺でも今は、《勇者》にしか扱えないはずの聖剣の担い手となり、ローラン公爵家の後ろ盾を得ている。

 慢心するのも良くないが、「自信がない」と口にしたり「これくらい普通だよ」と謙遜するのは、逆に人々に対して失礼だ。


「クロードはやはりカッコいいですね……」

「ありがとう。そう言ってもらえて嬉しい」

「うふふ……」


 レティシアは俺に礼を言われた途端、表情がさらに明るくなった。

 するとエレーヌが慌てた様子で、俺にこう言った。


「あっ……ちょっといい雰囲気──あ、あのっ! わたしもクロードくんのこと、カッコいいって思ってるよっ!」

「ありがとう、エレーヌ。いつも君には励まされているから、もっと自信を持っていい」

「うんっ!」


 エレーヌは弾ける笑顔で返事した。

 やはり女の子の笑顔はいいものだ。


 突如、馬車がふんわりと停止した。

 目の前には門があり、その奥には大きな庭と屋敷があった。


 エレーヌはその屋敷を見て、見惚れている様子だ。


「うわ……すご……」

「ここが、我がローラン公爵家の別荘です。王都に用事があるときは、いつもここで生活しています」


 レティシアは自慢するわけでもなく、淡々と事実を述べている様子だ。


 やはり元平民と上級貴族とでは、住む世界が違う。

 俺も世界最強の冒険者になって金を稼げば、立派な屋敷を建てられるのだろうか。


「クロード、エレーヌ。今日からあなた達もここに居てください。お父様がそうおっしゃったから……というのもありますが私自身、みんなで一緒に過ごしたいのです」

「分かった。住む場所を提供してくれてありがとう」

「えっと……うん……レティシアちゃん、よろしくね」


 公爵家の別荘に住むという話は、出発前にローラン公爵によって事前に説明されている。

 だから改まって遠慮する必要はない。


 ──馬車が動き出す。

 門番によって開けられた門を通過し、綺麗な花や植物が植えられた庭を抜ける。

 そして馬車は玄関前で停車した。


「おかえりなさいませ、レティシア嬢」

「ただいま戻りました、執事長」


 執事然とした老齢の男に、レティシアは挨拶をする。


 執事は上級使用人であると聞く。

 さらに男はその執事の長であり、本来であればこうして外まで出迎えないと思われる。

 だが恐らく、今日だけは直々にお出迎えをしたのかもしれない。


 レティシアは執事長に向けて、俺たちを紹介する。


「こちらの男性はクロード、女性はエレーヌです。もうすでに伝令から聞いているとは思いますが、彼らには今日からこちらに住んでもらいます」

「はじめまして。俺はクロードです。これからお世話になります」

「エ、エレーヌ……です。よろしくおねがいしますっ……!」

「ようこそいらっしゃいました。どうぞ、上がってください」


 執事長の男はかなり丁寧に、俺たちに対応してくれた。

 恐らく事前の伝令で、丁重にもてなすように命じられたのかもしれない。


 屋敷の内装はとても綺麗で豪華絢爛だった。

 都市ローランにある公爵家の本宅と、規模や造りはあまり変わらないようだ。


 執事の案内で、俺達は廊下をしばらく歩き続けた。



◇ ◇ ◇



「はあ……」


 客間に案内された俺は、ある程度荷解きを終わらせる。

 その後、ベッドに横たわっていた。


 ベッドはダブルサイズと大きく、とてもふかふかしていてお日様の香りもする。

 安宿や一般的なホテルのものとは、格が違う。


 だがそれ故に気安く使えず、少し窮屈な感じがしないでもない。

 とはいえ俺は、質の高いものや豪勢なものが大好きだ。


 複雑な胸中の中、長旅で疲れ切った俺は目を閉じる。


「──ん?」


 ふと、ノックの音が聞こえてきた。

 俺は立ち上がり、ドアを開ける。


「クロードくん、来ちゃった……」


 来客の正体はエレーヌだった。

 彼女は俺の顔を見るやいなや、ホッとした表情を浮かべていた。


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