第65話 飛竜と聖剣の光
「《闇よ、彼のものを重力で押し潰せ!》」
後衛にいる魔術師たちの重力制御魔術により、ホバリングをしていたドラゴンは羽ばたくのをやめる。
翼や身体が重く感じてきた証拠だろう。
ドラゴンは咆哮を上げながら高度を落としていき、最終的には自由落下に成功した。
「くっ──!」
俺から見て前方30メートル先の地点に、ドラゴンが落下した。
それと同時に、地響きが発生し砂塵が舞い散る。
前衛にてドラゴンと相対する手はずのレティシアやルイーズ王女は、腕で目を塞ぎつつバックステップをした。
ドラゴンが落下したことで、奴の全容をようやく把握できた。
体高10メートル以上もある爬虫類のボディに、コウモリのような翼。
全身を漆黒の鱗に覆われており、おそらく武器による攻撃は効果が薄いと思われる。
レティシアは手はず通り、挑発を開始する。
「ドラゴン、この私が相手です! 人里で殺戮が繰り広げられる前に、私があなたを倒します!」
「グルルルルララララアアッ!」
ドラゴンはしっぽを、レティシアに向けて勢いよく振る。
だがレティシアはそれを両手剣で受け止める。
ドラゴンの力が強いせいか、彼女は若干足を後ろに滑らせてしまう。
しかしこの程度なら、レティシアが遅れを取ることはなさそうだ。
レティシアがドラゴンを挑発している隙に、ルイーズ王女が大きくジャンプする。
そして宙を舞いながら、聖剣を用いてドラゴンの左翼を一閃する。
「ギャウウウウウウウッ!」
ドラゴンの翼は付け根から切断され、血しぶきを上げながらドラゴンは咆哮する。
胴体や頭部とは違い、ドラゴンの翼には鱗がない。
鱗があれば飛行に支障をきたすからだろうが、それが聖剣による翼の切断を許してしまったのだ。
怒り狂ったドラゴンは、まだ着地を終えていないルイーズ王女に目線を向ける。
そして大きく息を吸い始めた。
恐らく、落下中で逃げられないルイーズ王女を、一方的に炎で炙るつもりだろう。
だが──
「ドラゴン! こっちを見なさい!」
レティシアが両手剣を、ドラゴンの脚に叩きつける。
レティシアの刃とドラゴンの鱗がぶつかり合い、火花が飛び散る。
ドラゴンにはダメージがほとんどないものと思われるが、しかし奴はルイーズ王女からレティシアに狙いを変更した。
レティシアの挑発が成功した形となる。
──流石は《聖騎士》、仲間を守ることに特化した天職。
感服するより他にない。
ドラゴンはレティシアに向けて炎を放つ。
だが──
「魔術障壁、展開!」
「はっ!」
俺たち魔術師による魔術障壁によって、レティシアに向けて放たれたブレスは無効化される。
レティシアは前方のドラゴンを見据えつつも、後方30メートル先にいる俺たちに向けてサムズアップをした。
ルイーズ王女も着地を成功させ、俺たちにサムズアップをする。
──よかった、二人とも無事なようだ。
ドラゴンは左翼を切断され、しかも渾身の炎のブレスを放ったためか、少しバテている様子だ。
俺は奴に隙が生じるのを、ずっと待っていた。
「エレーヌ、ドラゴンを足止めだ!」
「うん! ──《水よ、氷の矢となりて、彼の者を貫けっ!》」
エレーヌは4本の氷柱を生成し、前方に射出する。
放物線を描く氷柱はそれぞれ、ドラゴンの四本脚を杭のように地面ごと貫いた。
エレーヌは正確無比な射撃と、そして破壊力を両立させたのだ。
「グラアアアアアアアアアアアアッ!」
ドラゴンの四本脚からは、鮮血が噴水のように舞い上がる。
ドラゴンは必死に前足を動かして、攻撃者であるエレーヌに襲いかかろうとする。
しかし足が氷柱によって地面に釘付けであるため、歩いて移動することすら不可能だ。
ドラゴンは必死に羽ばたこうとするが、左翼はすでに切断されていて飛行できない。
先程炎を吐いたため、今すぐにはブレスによる攻撃はできまい。
──これで詰めだ。
俺は聖剣を両手に持ち、天高く掲げる。
それを見たレティシアとルイーズ王女は、急いで横方向に逃げる。
今の所は、予定通りだ。
所有権が《勇者》ガブリエルから、俺に移った聖剣。
この聖剣の特徴は、大気中の魔力を吸い上げることだ。
日光に含まれる魔力、動植物や魔物から発散された魔力、空気そのものの魔力。
俺はそのすべてを吸い上げ、プラチナのように光り輝く聖剣の、真の力を呼び覚ます──
「《聖剣よ、彼の者を陽光で焼き払え!》」
詠唱とともに、俺は聖剣を真下に振り抜く。
聖剣の先端からは、指向性の高いレーザーが放たれる。
光は狙い通り、ドラゴンの身体を焼き払う。
「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアッ!」
ドラゴンは肉塊一つ残さず、消滅した。
咆哮の残響もわずかに残っているが、それもすぐに消え失せた。
俺は周囲に被害がないかを確認する。
ドラゴンが壁となったおかげで、地上を焼き払わずに済んだようだ。
「お、おお……」
「す、すげええええええええええっ!」
「や、やった……やったよ、クロードくん!」
俺が──いや、俺たちがドラゴンを討伐したことで、歓声が沸き上がる。
「クロード選手、あんたすげえぜ! 《回復術師》なのに聖剣を使いこなせるなんて!」
「これなら武闘会でも、優勝間違いなしだな!」
「いいえ、レティシア選手も重要な働きを見せていましたよ! どちらが勝つかは未知数です!」
「しかし、ルイーズ王女殿下もすごいな! 王女自ら前線に出るなんて、俺にはそんな真似できん!」
「それにしても、クロード選手の横にいる《賢者》の女の子もカッコよかったな! 見た目は可愛いけど、めちゃくちゃ強いんだぜ!」
《賢者》エレーヌのことも含め、後衛にいた魔術師たちは口々に俺たちを褒め称えてくれている。
俺はそれが嬉しかったし、すぐ近くにいるエレーヌも「えへへ……」と照れくさそうに笑っている。
だが俺は、ジェスチャーを交えてみんなを静まらせたあと、頭を下げる。
「皆さん、俺の指示に従って下さり、本当にありがとうございました。あなた達のおかげで、俺たちはドラゴンを倒せたのです!」
「うおおおおおおおおっ!」
「そんな……でも、ありがとうございます!」
俺の感謝の言葉に、魔術師たちもまた頭を下げた。
そこに、前線に出ていたレティシアとルイーズ王女も戻ってきた。
「レティシアちゃん! 大丈夫だった!?」
「大丈夫ですよ〜。まったくエレーヌは心配症ですね〜。よしよし……」
エレーヌがレティシアに抱きつく。
まあ無理もない、仲間がドラゴンに立ち向かったのだから。
レティシアはそんなエレーヌの背中を、優しく撫でている。
エレーヌは彼女の温もりに安心したのか、気持ちよさそうに「えへへ……」と声を漏らしていた。
そんな彼女を、ルイーズ王女は微笑ましく見ている。
そしてその後、俺に語りかけてきた。
「クロード、あなたの聖剣ってとんでもない代物ね。一瞬で街一つ滅ぼすくらいだわ──まあ、あなたなら悪用したりはしないでしょうけれど」
「ルイーズ王女の聖剣は、レーザーを射出できないのですか?」
「そうね。あなたの聖剣とは違った恩恵があるから。けど、今は秘密にしておくわ」
聖剣はこの世に複数存在し、それぞれ違った効果を持つという。
ルイーズ王女の聖剣の効果を知る機会、すなわち危難が訪れなければいいのだが……
エレーヌ・レティシア・ルイーズ王女の安否は確認できた。
その後、魔術師たちに点呼を取らせ、全員の生存を確認した。
「よし、王都に帰還しましょう!」
「はい!」
俺たちは意気揚々と平原をあとにし、王都の城門へ向かった。
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