第26話 勇者と聖女の謝罪
「ジャンヌさん、ほんとにクロードくんを追放したの……? 追放に関わってたのは、ガブリエルくんだけじゃないの……?」
「本当です、エレーヌさん。騙してごめんなさい……」
「そんな……ひどいよ……」
ジャンヌの言葉に、エレーヌは落胆した。
無理もない、エレーヌはジャンヌが追放に関与していることを、知らない様子だったのだ。
俺は追放された後の出来事を思い出しつつ、本心からジャンヌに言う。
「別にもうなんとも思ってない。だが、追放理由を聞かせてもらえるか?」
「追放の1周間前、私が勇者パーティに入った直後、クロードさんは普通の《回復術師》とは思えないほどのご活躍をされました。このままでは《聖女》たる私の沽券に関わる、そう思って魔が差してしまいました……」
俺が追放時に聞いた説明と、話が全然違う。
《回復術師》は《聖女》の下位互換だからいらない。
《聖女》と違って黒魔術が使えないから、一人で戦えないザコはいらない。
そういう話ではなかったのか。
──ああ、なるほど。
俺がガブリエルとの剣術決闘で勝利したにもかかわらず、頑なに俺の追放を強行したのはそういうわけか。
もしジャンヌが今言ったことが本当であれば、いくら強さを見せつけても無駄だったということだ。
俺は冷静に、ジャンヌに返事する。
「気持ちはわかる。他人と比べられたり、自分が劣っているものとして扱われたりするのは嫌だもんな。自分が一番じゃないと気がすまない。俺と君は、似た者同士かもしれない」
「似た者同士……? バカなこと言わないで! 私とあなたでは──」
「いいや、似た者同士だ。ただ、他人を見返すだけの力があるかないか。自分が一番になるために何をしたのか──違いはそれだけなんだよ」
俺は《剣聖》である父から剣術を学んでいた。
しかし、《回復術師》という肉弾戦に向いていない戦闘職を得てしまった。
それで村の連中にバカにされてきた。
「男の《回復術師》はいらない」「ザコはいらない」「親の七光りもここまでだな」と。
だから俺は彼らを見返すために、回復魔術と剣術に磨きをかけた。
ソロでダンジョンを攻略していた時期もあった。
その努力を認められ、ガブリエルとエレーヌでパーティを組んだんだ。
「なるほど……私は自分が一番になるために、他人を蹴落とした。でもそれは間違いだったということですね……」
「間違いとは一概には言えない。場合によっては有効だろう。だが、蹴落としたことで起こりうる影響はよく考える必要があるし、全部自己責任だ」
「分かりました……」
ジャンヌは複雑な表情をしていた。
自分の過ちを認めるなど、なかなかできることではないと俺は思う。
ジャンヌが自分なりに反省してくれたのを見届けた俺は、ガブリエルを見やる。
「ガブリエル、エレーヌから聞いた話だが……君は彼女を無理やりラブホテルに連れ込もうとしたそうだな? それは本当なのか?」
「くっ……」
ガブリエルは苦悶の表情を浮かべている。
彼のバディであるジャンヌ、そして部外者ともいえるレティシアさんや通行人までもが、厳しい目でガブリエルを見ていた。
一方のエレーヌは、涙ながらに俺にすがりついた。
「ほ、ほんとだよ! わたし、ほんとに嫌な思いしたんだから! 嘘なんてついてない!」
「分かってるよ。万が一のことを考えて聞いただけだ。別にエレーヌが嘘をついたなんて思ってない」
「だ、だよね……」
「で、どうなんだ? ガブリエル」
ガブリエルは少しだけ沈黙した後、「それは本当だ」と言って頭を下げた。
「エレーヌ、本当にすまない! 怖い思いさせちゃったな……もう二度とあんなことはしないから!」
「それ、わたしに対してだけじゃないよね? 他の女の人にも同じことしないよね?」
「しない! ──ギルドで半ば締め出されてから、ようやく気づいた……俺はなんてバカなことをしたんだ、ってな……」
そう言えば俺はこの前、ガブリエルの個人情報がギルドに張り出されていたのをちらと見た。
「要注意人物」として。
流石にそこまでされて、反省しない男ではなかったようだ。
俺はガブリエルに、最後の質問をすることにした。
「俺を追放した理由を聞かせてくれ」
「ハーレムを……作りたかったんだ」
やはりか。
エレーヌからセクハラの報告を受けた時点で勘付いてはいたが、やはりそういうことだったのか。
ハーレムを作るのに、男の俺は邪魔でしかない。
それに俺はただの男ではなく、ガブリエルのナンパを注意するような男だったのだ。
確かにそりゃ、同じく俺を妬んでいたジャンヌと共謀して、追い出したくもなるよな。
一応、俺から言うべきことはなにもない。
言いたいことはエレーヌに全部言ってもらった。
もう話は終わりだと思ったが、突如としてガブリエルが土下座してきた。
それに合わせて、ジャンヌも地に伏す。
「クロード、エレーヌ! 頼む、勇者パーティに戻ってきてくれ!」
「私からもお願いします! 私達には、あなた達の力が必要なのです!」
「悪いが、それは出来ない」
「わたしも嫌、かな……ごめんね?」
俺とエレーヌの返答に、ガブリエルとジャンヌはがっかりしたような表情を見せる。
ガブリエルたちは嘘をついてまで俺を追放し、エレーヌを毒牙にかけようとしたのだ。
反省しているのは分かるが、それで一緒にやり直せるかは別の問題だ。
「新たな仲間を探すんだ──といっても、ここのギルドではガブリエルは要注意リストに載ってたんだったか……汚れを成果で洗い流すか、別の街で一からやり直すか。それは君たち次第だ」
「そうか……分かった」
「クロードさん、エレーヌさん、本当に申し訳ありません……」
今度こそ、話は終わりだな。
言いたいことは全部言えた。
「治療費についてだが、さっき聖剣をもらってしまったし、現物支給で手を打とう。金は取らない」
「お前、どこまで俺たちをバカにする気だ!」
ガブリエルは突如、大声を上げて叫んだ。
なにか気に障るようなことを、俺は言ってしまったのだろうか。
「何が『現物支給で手を打とう』だよ! ちゃんと金は受け取りやがれ!」
ガブリエルはそう言って、かなりの価値を持つ金貨を俺の胸元に投げつけてきた。
ジャンヌもまた俺の手のひらに手を添えて、「ありがとうございました」と金貨を手渡してくれた。
「クロード、やっぱりお前のことは気に食わねえ! いつもいつも澄まし顔しやがって! ──助けてくれたことは本当に感謝している。ありがとう。だがな! やっぱりお前のことは好きになれねえ!」
「そうか……」
面と向かってそういう事言われたら、流石の俺でもへこむぞ……
でも、幼馴染だったからこそ、他人の欠点を臆面もなく言えるのかもしれない。
もし初対面であれば、あそこまで本音をぶつけることはできないはずだ。
そう思うと、俺は少しだけガブリエルを微笑ましく思った。
「どうしてそこで笑うんだ!」
「いや、なんでもない……ふふ」
「もういい! とりあえず代わりの剣を見繕っとかなきゃマズいから、俺たちはもう行くぞ!」
「クロードさん、本当にありがとうござ──」
「──敵襲! 魔物が来たぞ!」
ジャンヌが謝ろうとしたその時、突如として男の叫び声が聞こえてきた。
街の城門の方を見ると、すでに城門は閉じられていることが確認できた。
だが街の上空には、鳥類の魔物が数百体も飛び交っていた。
地上に出現する猛禽類だけでなく、洞窟やダンジョンに生息するとされる
何故ダンジョンの魔物が、こんな人里にまで出張ってきたんだ!
──いや、ガブリエルに施された呪いだ!
あれは因果を捻じ曲げてまで、対象者を殺そうとするものだ。
それによって魔物が、こちらまで引き寄せられてしまったのだろう。
もうすでに呪いは消滅しているが、途中までやってきた魔物たちは引き返すことを選択しなかったようだ。
これは、解呪魔術を使った俺だからこそ分かることだ。
俺は腰に差してある剣を鞘ごと抜き、ガブリエルに渡す。
これは父親から受け継いだ上物ではあるが、緊急事態なのでやむを得ない。
俺には聖剣があるし、後で返してもらえばいい。
「ガブリエル、ひとまずはそれを使って戦うんだ!」
「くっ……分かったよ! まさか今日だけでも、二度も助けられるなんて思わなかったぞ!」
俺とガブリエルは剣を構えながら、上空の魔物を睨んだ。
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