第23話 回復術師と勇者パーティ
「うおっ……眩しい……」
俺・エレーヌ・レティシアさんの三人は、ようやくダンジョンから出た。
太陽の位置から察するに、恐らく昼下がりなのだろう。
しかしダンジョンという暗所で長時間過ごしてきた俺たちにとって、太陽の光はまさに目に毒だった。
「エレーヌ、レティシアさん。目は大丈夫ですか? しばらくゆっくりしますか?」
「うん……そうする」
「そうですね。そのほうがいいと思います」
俺たちはダンジョンの入口近くで、おしゃべりしながら目を明順応させた。
◇ ◇ ◇
その後、俺たちはギルドで戦果報告を行った。
今回は未踏地帯到達を証明できたので、かなりの報酬が入ってきた。
三人で山分けしても、かなりの額となる。
俺たちはギルドホールを出て、レティシアさんに別れの挨拶をする。
「レティシアさん、また明日もダンジョンに潜りましょうね。さようなら」
「あの……クロード、途中まで一緒に帰りましょう?」
「えっと、クロードくんには別の仕事があるんですっ……!」
エレーヌはレティシアさんに、俺が行っている回復ビジネスについて説明し始めた。
これはもともと、ダンジョンをともに攻略するメンバーを集めるために行っていたことだ。
だが、レティシアさんが加入して仲間集めの必要性がなくなった後も、副業収入のために続けることにしている。
一通り説明したあと、レティシアさんは「人々を癒し、お金をもらう……いいお仕事ですね」と褒めてくれた。
そして彼女は続ける。
「私も付き合いますよ」
「いいのですか?」
「はい、人々の喜ぶ顔が見たいのです」
「分かりました。ありがとうございます──疲れた身体にー、回復魔術はいかがですかー?」
俺はエレーヌとレティシアさんを侍らせつつ、客引きを始めた。
◇ ◇ ◇
夕暮れ時……
回復ビジネスは今日も大盛況である。
開業からかれこれ数時間くらいは客引きを行っているが、客がいなくなる気配はない。
客は途切れることなく、行列すらできているほどだ。
このペースで行けば、上級貴族が口にするほどの高級ワインが買えるくらいの売上高があるはずだ。
「──クロード、助けてくれ!」
突如、俺のもとに一人の男が現れた。
彼は《アサシン》のように影が薄い冒険者で、俺の回復ビジネスの常連客でもある。
男はとても慌てている様子だった。
俺は嫌な予感がしつつも、冷静に問を投げる。
「急患ですか!?」
「ああ、ダンジョンのグリムリーパーにやられたらしい!」
「グリムリーパー……だと……!?」
グリムリーパー、またの名を《死神》
奴が持つ《呪いの鎌》でつけられた傷は、決して癒えることはないという。
非常に厄介な魔物だが、まさかこの近くのダンジョンにいるとは思わなかった。
古代遺跡たるダンジョンの文献研究が、まだまだ不十分だったという証拠だ。
「クロードくん……行っちゃうの……?」
エレーヌが心配そうな表情をしていた。
それは無理もない。
俺は重傷者を癒す時、決まってその人の経験を追体験し、苦痛を味わうこととなる。
俺が苦しむ姿を、エレーヌは見たくないのだろう。
それに、今回は解呪魔術も行わなければならない。
俺が呪いに侵されることはないにせよ、苦しみは倍増すると思われる。
だがそれでも、俺は患者を治療する。
患者の存在を知ってしまった以上、死なれたとなれば目覚めが悪すぎる。
「案内してください!」
「分かった──こっちだ!」
俺・エレーヌ・レティシアさんは、冒険者の男について行った。
◇ ◇ ◇
「嘘、だろ……!」
俺たちは男の案内のもと、街の城門付近に到着した。
するとそこには、胸から大量出血している《勇者》ガブリエルと、顔面蒼白の《聖女》ジャンヌが倒れていた。
どうやら見たところ、ガブリエルがグリムリーパーに斬られたようだ。
一方のジャンヌはそんな彼を必死に癒し、魔力欠乏症になったと思われる。
俺はこの惨状を見て、とても驚いている。
『《聖女》が新しく入ったから回復魔術は飽和状態だ』
『最弱職のお前はいるだけ邪魔なんだよ。一人で戦えないヘタレ男は守りたくねえ』
そう言って俺を追放した彼らが、今こうして苦しんでいることに。
そして、一時でも仲間として苦楽をともにした彼らが、死の危機に瀕していることに。
「ガブリエルくん……ジャンヌさん……」
エレーヌも俺と同じことを考えているのか、とても複雑な表情をしていた。
彼女は俺が追放されてすぐ、ガブリエルにラブホテルに連れ込まれそうになったらしい。
未遂だったからよかったものの、もし強姦されていれば一生消えない傷ができたに違いない。
たとえ《回復術師》である俺でも、心の傷までは治せない。
だがエレーヌは俺の幼馴染であると同時に、ガブリエルの幼馴染だ。
地元でパーティを組み、王国で一二を争うこの街までやってきたのだ。
そんな相手に「死ね」と呪うエレーヌではないだろう。
それにエレーヌは、ジャンヌが俺の追放に関わっていることを知らない。
むしろジャンヌこそが、ガブリエルの被害者だと思いこんでいる。
だからジャンヌを見殺しにすれば、間違いなくエレーヌとの関係は決裂してしまう。
「クロード、この方々は治療できそうですか!?」
レティシアさんが俺にすがりついてきた。
彼女は俺が追放される前から勇者パーティを調査していたようだが、メンバーの顔までは知らなかったのだろう。
だがレティシアさんなら、相手がガブリエルだと分かっていたとしても、治療を要求したことだろう。
「ガブリエルを《勇者》だとは認めない」と宣言した彼女だが、「人でなし」とは一言も言っていない。
どんな人間であろうとも、その人が性根の腐った極悪人でない限り手を差し伸べる。
俺はレティシアさんの行動を見て、そんな人間であると感じていた。
──よし、決めた。
まずはガブリエルから治療しよう。
確かに俺は、パーティを追放されて悔しい思いはした。
だが、もうあのパーティには未練はない。
エレーヌとの信頼関係が深まったし、レティシアさんという新しい仲間ができたからだ。
未練がないからこそ、俺はガブリエルたちを助けることができる。
もとより俺は最初から、彼らを恨んでなどいない。
俺はガブリエルの傍に座る。
彼は大量の涙を流しており、表情は完全に歪みきっていた。
「ク、クロード……すまなかった……! お前を追放しなければ、お前の言う通り慎重に行動していれば、こんなことにはならなかったんだっ……! 許してくれっ……!」
「静かにしろ、ガブリエル。治療に集中できない──《光よ、彼の者の呪縛を解き放て》」
俺はガブリエルの胸に手を置き、解呪魔術を発動させた。
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