第81話 ルイーズからの誘い

 教皇とその側近であるシャルロットさんと話をした後、俺とルイーズは迎賓館に戻る。

 空はもう、暗くなり始めていた。


 俺はルイーズを連れて、俺・エレーヌ・レティシアに割り当てられた部屋に向かう。

 その理由は、ルイーズがみんなとおしゃべりしたいからだそうだ。


「クロードくん、ルイーズ王女! おかえりなさい!」

「お帰りなさいませ。本日は予定よりも遅かったですね。何かあったのですか?」


 エレーヌとレティシアが、心配そうな表情をしながら出迎えてくれた。


 俺とルイーズは、チンピラに絡まれていたシャルロットさんを助けたため、帰宅時間が遅くなってしまったのだ。

 俺はエレーヌたちに事情を説明する。


「──というわけなんだ。だから俺とルイーズはなかなか帰ってこれなかったんだ」

「そうだったんだ……大変だったね」

「というよりクロード、今ルイーズ王女殿下を呼び捨てにしましたね……? どういうことなのですか?」

「私が許可したのよ。レティシア、あなたがクロードにそうしたようにね」


 ルイーズの言葉に、レティシアとエレーヌは驚きを隠せていない様子だ。


「エレーヌ、レティシア。あなたたちもタメ口でいいわ」

「い、いいんですかっ……!?」

「そんな、恐れ多いです!」

「いいのよ別に。私たち三人はクロードと結婚するんだから、少しでも仲良くしたいじゃない?」


 円満なハーレム運営には、男の努力に加えて女達の結束も必要だ。

 だからルイーズの提案は、俺にとっても非常に嬉しい。


 エレーヌとレティシアは冷や汗をかきつつも、ルイーズの目を見据えた。


「公式の場では今まで通り敬語で話してもらうけど、プライベートではタメ口でも問題ないわ」

「わ、わかりました……じゃなくて、わかったよ。ルイーズちゃん」

「私は誰に対しても丁寧な言葉づかいで話します。ですが『ルイーズ』とお呼びしても、よろしいのですか……?」

「ええ、それでお願い」

「かしこまりました、ルイーズ。今後とも仲良くしましょう」


 エレーヌ・レティシアの二人は、ルイーズとそれぞれ握手を交わす。

 やはり呼び方・話し方一つで親しみやすさは変わるので、彼女たちはもっと仲良くなれそうだ。


 握手し終わった後、ルイーズは手をパンと叩く。


「さて、本題に入るけど……今から1週間後に、この街で教皇聖下がパレードをするそうよ。私たちもお忍びで見に行かない?」


 実は教皇と挨拶をした時、パレードの概要を聞いていた。


 教皇によれば、馬と繋がれたチャリオットに乗り、姿を晒すのだという。

 国際武闘会開催が近く、また教皇就任から1年も経っていないということで、群衆にアピールするのだそうだ。

 ちなみにチャリオットの周辺には護衛の騎士たちが付き、《アサシン》も気配遮断した上で待機するので、暗殺の心配は薄いという。


 俺はもうすでに、ルイーズとパレードを見に行くことを決めている。


「ルイーズ……王女であるあなたが『お忍び』は、流石に問題だと思います」

「その点も心配ないわ。父上の許可はもらってあるし。『クロードたちが一緒なら問題ない』って言ってくれたわ」

「かしこまりました。あなたのことは私たち三人が守ります」


 レティシアが頭を下げると、ルイーズは満足そうに微笑む。

 だが、急にもじもじし始めた。


「本題はここで終わりにするとして、少しお願いがあるんだけど……クロード、今日は私の部屋に来て……? 添い寝、してほしい……」

「え……?」


 ルイーズの言葉に、俺を含むみんなが驚きの声を上げる。


「ほ、ほらっ! 私、広いスイートルームに一人で泊まってるの……女の子一人じゃ、いつ誰に襲われるか分からないじゃないっ……!?」

「部屋の外では護衛が巡回しているはずだが……」


 ルイーズが滞在しているスイートルームは角部屋だ。

 その部屋に接する廊下や外には、王国や迎賓館が用意した護衛が待機している。

 暗殺対策はバッチリというわけだ。


 レティシアは俺の意見に、大きく頷く。


「クロードの言う通りです──それに彼はこう言っていました。『レティシアと寝たい』と」

「はあっ!? クロード、あんたそんなこと言ったの!? 私よりもレティシアのほうがいいって!?」

「いや、言ってない!」

「クロードくん……? わたしのことは無視するの……昨日、わたしも一緒に寝たよね……?」

「いや、レティシアの発言は捏造だから……」


 ルイーズは顔を真っ赤にしながら怒る。

 一方のエレーヌは目を潤ませ、悲しそうにしていた。

 そしてレティシアは「冗談です……うふふ」と笑い、舌を出す。


 ルイーズは俺の手を取り、強く握りしめた。


「とにかくクロード、今日は私の部屋に来て!」

「わ、分かった。ルイーズが『いい』っていうのなら」


 ルイーズ・エレーヌ・レティシアの三人と結婚するのに、ルイーズとだけ一緒にいる時間が少なくなるのは不公平だ。

 それに、結婚相手の事をよく理解したい。

 そう思った俺は今回の誘いを好機と捉え、返事した。


「クロード……私、寂しいです……」

「そうだよ……わたしたちのこと、嫌いになっちゃった……?」


 レティシアとエレーヌが、うつむき加減に俺を引き止める。

 少し心苦しくなった俺は、彼女たちに向き合う。


「君たちを嫌いになったりはしない。大好きだ。ただ、今の部屋割だとルイーズと一緒に寝る機会がなくなる。それは不平等だと感じたんだ」

「確かに、言われてみればそのとおりですね……」

「わかったよ……でも、明日はわたしたちと一緒にいてくれる……?」

「ああ、約束する」


 寂しがるレティシアとエレーヌに誓うと、彼女たちは安堵の表情を見せてくれた。


 この後、みんなでダイニングに趣き、夕食を取る。

 そしてその後、俺とルイーズは彼女の部屋に向かった。

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