第28話 石化の魔眼
夜の城壁内部。
そこには松明の灯と、窓越しに入ってくる月明かりしかない。
そのため、視界がとても悪い。
俺とジャンヌの光魔術がなければ、安全に進むことはままならないだろう。
俺たちは魔物を倒しつつ、城壁内部を進む。
するとしばらくして、3体の石像が目の前に現れた。
「これが……石化の魔眼の威力……」
ジャンヌは石化した兵士たちを見て、あっけにとられている様子だった。
無理もない──彼女はDランク冒険者で、《聖女》という最強職ではあるものの、経験が圧倒的に足りないのだ。
俺は石化した三人の兵士を視認した状態で、解呪魔術を発動させる。
すると、石像が小さな音ともに砕け、そして中から生きた人間が出てきた。
「お、俺たちは一体……」
「た、助かった……」
「坊主、ありがとうな!」
兵士たちは石化から解放され、驚いている様子だった。
もしかしたら彼らは今まで、石化の経験がなかったのかもしれない。
《石化の魔眼》が使えるトカゲは、ダンジョンでしかお目にかかれない。
城壁や街の警備が主な任務である彼らには、経験することはまずないだろう。
「あなた達は城壁の防衛をお願いします!」
「わ、分かった! 坊主たちも気をつけろよ!」
俺は兵士たちに指示をした後、仲間を連れて先へ進む。
するとジャンヌは走りながら、俺に謝罪をしてきた。
「クロードさん、申し訳ありません! 先程は取り乱してしまいました!」
「石化した人間を見たら、最初は誰だって驚く。だから次は取り乱さず、がんばってくれればいい!」
「は、はいっ!」
ジャンヌを奮い立たせた後、俺は次の作戦を考える。
城壁内部はそれほど敵は多くなく、苦戦はしていない。
なので、解呪魔術を使える俺とジャンヌは、別行動を取ったほうがよりスムーズに解呪できるはずだ。
俺はジャンヌに呼びかける。
「ジャンヌ、俺の助けがなくても解呪できるな?」
「できます!」
「なら、ガブリエルとともに、反対方向へ行ってもらう。そこで人々を癒すんだ!」
「はい!」
「ガブリエルはジャンヌを守ってあげてくれ!」
「おう!」
俺とジャンヌたちは共同戦線を解消し、散会する。
ジャンヌとガブリエルは、俺たちとは反対方向に向けて走り出した。
「前衛は俺、中衛はエレーヌ、後衛はレティシアさん──この布陣で行きます!」
「作戦の意図を教えてください! 何故クロードが前に出るのですか!?」
「そ、そうだよ! 危ないよ!」
「魔眼持ちのトカゲが潜伏している可能性があります。魔術耐性に優れた《回復術師》なら、ある程度抵抗できます。そしてレティシアさんが後ろなのは、後方からの攻撃を防ぐためです!」
俺は走りながら、レティシアさんやエレーヌに説明する。
彼女たちにはなんとか納得してもらえた。
が、それも束の間。
早速俺の前に、巨大グモが立ちふさがった。
そしてクモは糸を吐き出し、俺を捕らえようとしている。
だが俺は、クモの糸を聖剣で斬り裂く。
脚を踏みしめて加速し、スライディングを決める。
クモの脚と脚の間に潜り込むと同時に聖剣を天高く掲げ、クモの腹を両断する。
俺はスライディングの勢いを殺さずに立ち上がり、そのまま走り続ける。
後ろの戦況を確認するために振り返ると、そこには「す、すごい……」と驚きの表情を隠せずにいるエレーヌとレティシアさんがいた。
◇ ◇ ◇
俺たちはその後、城壁内部を走り続けた。
潜んでいる魔物を駆逐しつつ、石化した兵士たちを癒した。
これでひとまず安全は確保されそうだったが──
「ちっ!」
なんと、俺の目の前にはトカゲの魔物がいた。
棘のような鱗。
真っ赤な瞳。
しっぽを含めて、体長5メートルはあろうかという巨体。
これは間違いなく、《石化の魔眼》を持つ上位個体だ。
「ク、クロード、くん……!」
「あ、足が……重い……!」
魔眼に睨まれた人間は石化する。
《賢者》エレーヌや《聖騎士》レティシアさんのような、ある程度の魔術耐性を持つ者であっても、行動を少しずつ阻害されてしまうのだ。
彼女たちは恐らく、石化とまでは言わないものの、身体が重くなっているはずだ。
だが、俺は《回復術師》だ。
魔術耐性は他の天職よりも優れているし、解呪魔術を自分にかければどうということはない。
ちなみに、他人に解呪魔術を継続してかけ続けることは、あまりにも非効率で現実的ではない。
俺はトカゲとの距離を一気に詰める。
俺が普通に動けているのを見て、トカゲは驚いている様子だ。
足を石床にしっかりと踏みしめる。
ぽかんと開かれているトカゲの口に、聖剣を突っ込む。
聖剣はトカゲの食道や内臓を切り裂き、口からは返り血が噴き出てきた。
その後俺は聖剣を真上に振り上げて、トカゲの頭蓋を切断した。
「よし、これで完了……」
「あっ、身体が軽くなった!」
「ありがとうございます、クロード!」
魔眼の持ち主であるトカゲを倒したことで、軽症者であるエレーヌとレティシアさんは完全復活したようだ。
彼女たちの感謝の言葉に対し、俺は「どういたしまして」と返す。
エレーヌは少しだけホッとしたような表情を浮かべて言った。
「これでもう、城壁を半周くらいしたよね?」
「ああそうだな……あとは、ガブリエルたちが上手くやってくれれば──」
「──おーい!」
噂をすれば、ガブリエルとジャンヌが現れた。
見たところ彼らに外傷はなく、無事のようだ。
俺は彼らに、今の状況を報告することにした。
「魔眼持ちのトカゲに遭遇したが、無事に倒せた。その他に異常はない──ガブリエルとジャンヌはどうだ?」
「こっちも異常なしだ。でもそういえば、魔眼持ちには会わなかったな──くそっ、手柄を取られちまった!」
「まあ、悔しいのは分かるが……何もなかっただけ良かったじゃないか」
「ちっ、それもそうだな……」
「──おーい! 冒険者ギルドから招集がかかってるぞー!」
ふと、兵士たちの声が聞こえてきた。
彼らに礼を言った後、俺たちはギルドホールに向かった。
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