第6話 回復ビジネスと看板娘
俺とエレーヌは夕方まで、魔物討伐に勤しんでいた。
そこそこの成果を上げられたが、まだまだ物足りない。
俺は街の近くにあるダンジョンを完全攻略したい。
大量の報酬を得て、王都に移住したい。
王都に移住して、レベルの高い冒険者や戦士たちと肩を並べ、そして勝ちたい。
それが世界最強の冒険者を目指す俺の、短・中期的目標だ。
だがそれにはあと一人は仲間が必要だと、俺は結論づけた。
◇ ◇ ◇
「クロードくん、帰ろう?」
夕方。
ギルドにて戦果の報告と換金を終えた、俺とエレーヌ。
エレーヌは満足気に帰ろうとするが、俺にはまだやることが残っている。
「いや、エレーヌは先に帰っていてくれ。俺はもうひと仕事残ってるからな」
「え……どんな仕事?」
「ズバリ……回復ビジネスだ」
俺はエレーヌに、昨日考案したビジネスの内容を一通り説明する。
夕方頃に街に戻ってくる冒険者を回復魔術で癒す。
それで金を稼ぎつつ、パーティに入れてもらえるように交渉する。
エレーヌは俺の話を聞き、目を輝かせていた。
「もしかして、『肌荒れに効く』っていうあれかな!? それなら昨日、すっごくうわさになってたよ!?」
「そういえばお客さんも、『肌がキレイになった』とかって言ってたな。女性客のほうが断然多かったし」
「わたしにもなにか手伝えること、ないかな?」
「じゃあ、大声で客引きできるか?」
「う……恥ずかしいけど、がんばるね……」
エレーヌは目をそらしながらも、決意を固めてくれたようだ。
これから俺のためにがんばってくれると思うと、とても嬉しい。
◇ ◇ ◇
「疲れた身体にー、回復はいかがですかー?」
「お、お肌がきれいになりますよっ……!」
俺とエレーヌはギルドホール前で、回復ビジネスを行っている。
今回はエレーヌが看板娘になってくれているため、こっちを見てくれる男性冒険者が昨日よりも多い。
もっとも、彼女はとても緊張している様子だったが。
人前で声を出すのを、とても恥ずかしがっているのだろう。
「──あ、やってるわね」
「──今日は女の子も一緒だね。彼女だったりするのかな?」
「──その可能性はありそうですね……残念といえば残念ですが、致し方ないでしょう」
三人組の女性冒険者がこちらに気づいてやってくる。
彼女たちは昨日来てくれた、記念すべき最初の顧客であった。
しかし、エレーヌを「彼女」と勘違いされたことだけは、思いもよらなかった。
エレーヌはあくまで幼馴染であり、大切な友達だ。
エレーヌも「ええっ……そんなあ……」と困惑していた。
もっとも、何故か頬を赤らめていたのだが。
「今日は私達三人を癒してちょうだい」
「昨日に引き続き、ありがとうございます──《光よ、彼の者に癒しを!》」
俺は三人分の施術料金を受け取り、回復魔術を施す。
女性冒険者たちは皆、とても気持ちよさそうにしていた。
「ありがとう──ところで、その女の子は恋人なのかしら?」
「いえ、幼馴染です」
「またまたー、誤魔化してもダメだよー?」
「いや、本当ですって!」
「でもその子、顔が真っ赤ですよ? ──くすっ……なるほど」
「ええっ……『なるほど』ってどういう意味なんですか……」
女性冒険者たちに、俺は思わずたじたじとなってしまう。
一方のエレーヌは終始無言だった。
「あはは──からかうのはこのへんにしてあげる。じゃあ、また来るわね」
「あ、ありがとうございました……!」
俺は三人の女性冒険者を見送った。
彼女たちがもしリピーターになってくれれば、とてもありがたい。
突然、エレーヌがジト目で俺を見つめてきた。
「とっても仲良さそーだねー」
「仲が良いってわけじゃないけどな。よっぽど施術を気に入ってくれたんだろう」
「そう……だよね! うん!」
エレーヌは俺の答えに安心したのか、表情が少しだけ柔らかくなった。
彼女の機嫌が直ったようで安心した俺は、だみ声で呼び込みを始めた。
するとすぐに、一人の中肉中背の男がやってきた。
彼も実は、昨日来てくれたお客さんである。
「いらっしゃいませ!」
「今日は可愛い女の子もいるんだな。この子に癒してもらうのは可能か?」
元々は俺の実力をアピールするために開業したビジネスなので、当然エレーヌは売り物ではない。
しかも「女の子にご奉仕してもらいたい」という下心が見え見えなので、そのような男に大切な幼馴染を売りたくはない。
だが、顧客の要望にはなるべく応えなければならない。
俺はとりあえず、エレーヌ本人の希望を聞くことにした。
「エレーヌ、どうする?」
「ご、ごめんなさい……回復魔術ならクロードくん──えっと、この人のほうが上手なので……」
エレーヌはやはり、とても困惑していた。
彼女は呼び込みですら恥ずかしがるのだから、男に苦手意識を持つのも頷ける。
でもそういえば、俺に対してだけはあまり恥ずかしそうにしていないな。
男として見られていないのだろう。
「わ、分かった。つまらないことを聞いて悪かった──じゃあクロード、頼む」
「ありがとうございます」
俺は男から金を受け取り、回復魔術を施した。
エレーヌにフラれてしょんぼりしていた彼も、施術が終わったあとは何故かうっとりとした表情をしていた。
「いや、すごいなこれは……実は俺のパーティには女の《回復術師》がいるんだけど、君のほうがそいつよりよっぽどうまいよ」
「あはは……ありがとうございます」
何故か男は顔を赤らめながら、俺のもとを去る。
彼の言葉にはなにか含みがあると思った俺は、思わず苦笑いしてしまった。
◇ ◇ ◇
「エレーヌ、今日は手伝ってくれてありがとう」
「ううん、どういたしまして。えへへ」
俺たちは1時間くらい回復ビジネスを続け、すっかり夜となった。
そろそろ帰らないと、とても物騒だ。
「──どうしてこんなことに……」
「ん?」
ふと、女の声が聞こえてきたのでその方を見てみると、そこには二人の男女がいた。
彼女たちは《聖女》ジャンヌと《勇者》ガブリエル、俺を追放した人間だ。
なぜ彼女たちが悲しそうな表情をしているのか、その理由はわからない。
だが関わり合いになりたくないので、俺とエレーヌは何も言わずに立ち去った。
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