第82話 ルイーズの本心
「ここが、私の部屋ね」
「ありがとう、お邪魔します」
ルイーズに案内された俺は、スイートルームに足を踏み入れる。
非常に大きな部屋の中に、寝室・リビングルーム・応接間などが揃っていた。
俺・エレーヌ・レティシアの三人が泊まっていた部屋もかなりの大きさだったが、それを上回る敷地面積である。
そんな広い部屋にはすでに、いい香りが漂っていた。
「じゃあ私、先にお風呂に入ってくるわね──覗かないでよ?」
「大丈夫だ、覗かない」
「う……な、なんかそういう風に平然とされると、イラッと来るわね……どうしてかしら……?」
ルイーズは首を傾げた後、着替えを持ってバスルームに入る。
俺はその間、イメージトレーニングをすることにした。
◇ ◇ ◇
「お風呂空いたわよ」
「ありがとう」
ルイーズに促された俺は、着替えを持って脱衣所に向かう。
服をすべて脱いで生まれたままの姿になった後、浴室に入った。
「うおっ……これは」
浴室には、とても甘い香りが充満していた。
恐らく、ルイーズが使っていたシャンプーやボディソープなどの香りだろう。
興奮を必死に抑え、俺は全身を洗う。
その後、湯船に浸かった。
「──これは、危険だな」
俺は今、なんとルイーズの残り湯に入っている。
男として、否が応でも背徳的な妄想を掻き立ててしまう。
実は昨日、エレーヌとレティシアの残り湯に入ったのだが、その時も同様の反応をしてしまった。
禁欲的であるからといって、生理的に反応してしまうことを避けることはできない。
問題は「その性的興奮とどう向き合うか」である。
俺は国際武闘会に向けてイメージトレーニングをし、「世界最強の冒険者」となった俺自身の姿を仮想した。
◇ ◇ ◇
風呂から出た俺は着替えを済ませ、スイートルームのリビングに向かう。
ソファにはルイーズが座っており、なにか考え事をしている様子だった。
だが、俺が戻ってきたことに気づき、顔を真っ赤にし始めた。
「お、おかえりなさい」
「ただいま」
「さ、そろそろ寝ましょ……い、言っとくけど、これも護衛の一環なんだからねっ!」
ベッドは当然、一つしかない。
すなわち、ルイーズと添い寝するということである。
正直恥ずかしいが、しかし恥ずかしいのは彼女も同じはずだ。
その証拠に、俺とルイーズとの物理的距離は少しある。
昨日レティシアも言っていた。
「自分だけ楽をするのはズルい」と。
ルイーズが俺に歩み寄ってくれるのなら、俺もそれに応える。
「分かった。一緒に寝よう」
「い、意外ね……『俺はソファで寝るから、ベッドは一人で使ってくれ』なんていい出すかと思ってたけど」
「昨日までの俺なら、そうしてた」
俺はレティシアの顔を思い出しつつ、苦笑いをしながら答える。
するとルイーズは、安堵と緊張が入り混じったような表情をした。
俺たちはベッドに入る。
幅は2メートル弱と、二人が並んで寝られるサイズである。
俺は天井のシミを数えながら、ルイーズに問う。
「──国王陛下から俺との結婚を打診された時、どう思った?」
「な、何よいきなり……」
「今俺たち、二人っきりで添い寝しているだろう? 今までずっと聞けなかったんだが、丁度いい機会だと思って」
そう、俺はずっと聞きたかった。
ルイーズがこの結婚話に納得しているかどうかを。
普通に考えれば、王族と平民出身者が結婚するなどありえない。
それにルイーズは美少女だし、勉学や武術の才能もある。
俺と釣り合うかどうかなんて、考えるまでもない。
国王陛下は俺を王侯貴族にしたがっていたようだが、もっと他に方法があったはずなのだ。
ルイーズはリラックスした声音で、言う。
「正直、驚いたわ。だって次期女王が、騎士と結婚するのよ? ──でも、勘違いしないで。私はむしろ嬉しかったんだから」
「嬉しかった、か。それは何故だ?」
「王国武闘会でリシャールと戦った時、あなたが心の支えになってくれたからよ」
武闘会で、いとこの《剣聖》リシャールと戦ったルイーズは、王女や《勇者》としてのプライドをズタボロにされたらしい。
「自分から『王女』と、最強職 《勇者》を取ったら、何も残らない」と、そう考えたようだ。
だが、平民であり最弱職 《回復術師》である俺が結果を出していることを思い出し、「身分も天職も関係なく、結果を出し続ければいい」と結論づけたようである。
そのおかげでルイーズは、リシャールに勝てたというのだ。
「その時私は、世界最強の《勇者》になるっていう目標ができた。その時、あなたに恋しちゃったのかもしれない……その、ありがとう……特訓に付き合ってくれて。心の支えになってくれて……」
「こちらこそ。君の想いが知れてよかった」
俺が返事をすると、ルイーズは俺と肩が触れ合う程に近づいてきた。
髪からは甘い香りが漂ってきて、抑えるのが大変だ。
「私、いつも素直じゃないけど……あなたのこと、好きよ……大好き」
耳元でルイーズに囁かれる。
吐息混じりの甘い声に、ゾクゾクしてしまう。
俺はルイーズに手を握られる。
温かくて、すべすべしていて気持ちがいい。
「クロードは……私のこと、好き……?」
「ああ、好きだ──でも申し訳ないけど、これは恋愛的な意味での『好き』じゃない」
王女として尊敬している。
仲間として好感が持てる。
俺がルイーズに対して抱いているのは、そんな感情だ。
もとより俺は、恋愛になど興味がなかった。
「そうよね……だってあなたには、エレーヌっていう幼馴染がいるものね……それにレティシアは積極的だし……それに比べて私は──」
「──だからこれから、君のことを好きになるよ。恋愛はよく分からないけど、これから君のことを知って好きになりたい」
俺が本心からの言葉を言うと、ルイーズは「あう……」とうめき、言葉を失った様子だ。
そして突如、俺の頬に柔らかく湿ったものが当たった。
「バカ……」
俺の頬にキスしたルイーズは、掛け布団を顔いっぱいにかける。
一方の俺は恥ずかしさと緊張のあまり、今晩は寝られるか心配になってしまった。
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