第32話 死神との戦い
グリムリーパーがいるとされる、ダンジョン地下4階の部屋の前。
そこには数十人もの冒険者達がいる。
俺たちは彼らに向けて呼びかける。
「ここから先は、俺一人で行く」
「なっ……!? バ、バカを言うな! 俺はアレに為すすべもなくやられたんだぞ!」
俺の言葉に、ガブリエルを始めとする冒険者達がおののき始める。
だがガブリエル以外の冒険者達は、声も出せないほど恐れているようだった。
「確かにお前の剣術は、悔しいけど俺よりも上手かった。他の《回復術師》よりも強い。けどな、それでも勝てる相手だとは思えない! ──エレーヌ、お前からもなにか言ってやれ!」
「ううん……わたし、クロードくんを信じるよ」
ガブリエルに話を振られたエレーヌは、真剣な面持ちで答える。
昨日は冒険者たちが惨敗する夢を見たということで怖がっていた彼女だったが、今は俺を信じてくれていると知れてとても嬉しかった。
「確かにクロードくんが死ぬかもしれないと思うと怖いよ……でも、本人が大丈夫っていうんなら、きっと大丈夫なんだよ……」
「くっ! ──クロード、絶対に生きて返ってこい!」
「ああ」
俺はガブリエルにサムズ・アップする。
ガブリエルもエレーヌもやはり、心配そうな表情を浮かべていた。
「レティシアさん、俺が帰ってくるまでエレーヌのことをよろしくお願いします。この子、寂しがり屋ですから」
「分かりました……ですが、必ずや勝利を! そしてまた元気な顔を見せてください!」
「はい!」
俺はレティシアさんに一礼する。
すると、ジャンヌが俺に頭を下げてきた。
「クロードさん、申し訳ありません。私も《聖女》として協力したいところですが、ガブリエルさんが受けた呪いを解けなかった私なんて、足手まといですよね……」
「そう自分を卑下しないでくれ──今回は俺一人でなければ危険な戦いだ。だから誰も連れていけないというだけのことだ」
「わ、分かりました──がんばってください!」
「行ってくる」
俺はジャンヌや冒険者達に手を振った後、金属製の重厚な扉を開く。
扉は音を立てながらゆっくりと開き、完全に開ききる前に俺は入室した。
部屋はかなりの広さで、明らかに1対1での戦いは想定されていない。
10対1でもまだ広いくらいだ。
その部屋の壁にはびっしりと松明やろうそくが灯っており、他の部屋と比べて若干明るい。
そしてその奥に、《死神》はいた。
『──よくぞ参った、強者よ。我はグリムリーパーだ』
体長はおよそ2メートルかそこらで、人間の骨格標本のような身体をしている。
漆黒のローブを纏っており、血のように紅い巨大な鎌を持っていた。
奴が強力な呪いを持つ魔物、グリムリーパーか。
俺はプラチナのように輝く聖剣を構え、それと相対する。
『その剣の輝き、お前は勇者か?』
「俺は《回復術師》だ」
『フッ……たった一人で我の部屋にやってきた、その勇気は認めてやろう。だが、蛮勇だけでは我には勝てぬぞ!』
グリムリーパーは瞬間移動したかのように、俺に接近してきた。
そして素早い動きで鎌を水平に払ってくる。
俺は聖剣を下から上に振り払い、鎌の直撃を防ぐ。
刃と刃がぶつかり、大きな金属音が鳴り響き、火花が飛び散る。
が──
「ちっ……」
俺の胸は水平に裂けていた。
鎌で斬られていないはずなのに、斬られたかのような傷ができていたのだ。
傷口は浅いようだが、それでも大量の血が流れてしまい、とても熱くて痛い。
俺が傷口を触っているところを見て、グリムリーパーは嘲笑する。
『ハハハ、我が《呪いの鎌》は──』
「先に”斬られた”という結果を作り出す。だから必中だ──だったか?」
『な、何故お前がそんな事を知っている……? それに、我が言おうとしたことを一字一句違えずに予測した……だと!? お前、未来予知の力でも持っているのか!?』
正確に言えば、昨日追体験したガブリエルの記憶の中にあったグリムリーパーのセリフを暗唱しただけだ。
だがどういうわけか、グリムリーパーは俺が未来を予測したとでも勘違いしているらしい。
訂正するのも面倒だし、勘違いさせたほうが有利な展開になるかもしれない。
俺は微笑んで虚勢を張った。
『だが、その鎌でつけられた傷は決して癒え──何だと!?』
俺は解呪魔術と回復魔術を用いて傷を癒す。
自分自身が受けた傷と呪いを魔術で癒す場合、そして傷を受けてすぐに回復した場合、ガブリエルのときのように重症化はしないようだ。
よし、血も出ていないし痛くない。
さらに俺は予防策として、自動解呪魔術と自動回復魔術をセットしておく。
それも、かなりの魔力を消費して、だ。
俺は大きく息を吸って吐き、聖剣を構え直す。
グリムリーパーはバックステップで、俺から距離を取ろうとする。
だが俺も負けじと脚に力を込め、奴を追いかける。
俺は聖剣を水平に薙ぐ。
流星のように輝く剣の切っ先は、グリムリーパーのローブを斬り裂く。
そして聖剣を一旦上に振り上げ、脳天をかち割るべく一気に振り下ろす。
『ちいっ!』
グリムリーパーは鎌の柄で、俺の振り下ろしを防ぐ。
どうやら《呪いの鎌》は特殊な素材や魔術が使われているのか、聖剣をもってしても切断できないようだ。
鎌の呪いと聖剣の光が相克を起こし、一瞬だけまばゆく光った。
俺はその光に眩惑され、目の前が真っ白になってしまう。
『バカめっ!』
グリムリーパーの声とともに、風切り音が聞こえてきた。
俺はその音を頼りに、剣を斜めに振り上げて鎌の直撃を防ぐ。
『くっ! 何故攻撃が当たらない! 必中のはずだぞ!』
自動解呪魔術の効果と、《回復術師》特有の運の良さ。
これがグリムリーパーの「先に”斬られた”という結果を作り出す」という必中の鎌を防いだからくりだ。
だが、そんな重要な事を敵に明かすはずもなく──
『ぐ──』
グリムリーパーの首を、俺は聖剣で刎ねる。
骨を切断する際、通常ならば引っかかりが生じるはずだが、この聖剣であれば一切の抵抗を感じる事なく断ち切る事が出来た。
刃の進入角度や速度、そして剣の切れ味。
グリムリーパーの首はどこかに吹っ飛ぶ事なく、奴の足元にぼとりと落下した。
奴からは何の魔力も感じない。
生命活動を完全に停止させた、ということだ。
「よし──」
『──グオオオオオッ! ギシャアアアアアアアアアッ!』
突如、下の階層から魔物の慟哭が聞こえてきた。
その直後に床面が激しく揺れ、俺は思わず跪いてしまう。
「この鳴き声──恐らくはドラゴンか」
その可能性はありうる。
ドラゴンの中には、洞窟やダンジョンに潜んで財宝を守るものもいると聞く。
ダンジョンと化したこの古代遺跡には沢山の財宝が眠っているとされ、それを今まで守っていたのだろう。
グリムリーパーが消滅したことで、ドラゴンが危機感を持ち始めたのかもしれない。
俺は全力で、みんなが待つ場所まで引き返す。
エレーヌとレティシアさんの無事を確認するため。
そしてドラゴン退治を仲間たちに呼びかけるため。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。