第6話

「何と酷い話でしょう。

 直ぐに妹と両親を成敗してあげたいのですが、さすがに私一騎で王家を相手にするのは無理があります。

 まずは王女殿下が安心して暮らせる場所を確保しましょう。

 私の国に来て頂けたら何の心配もありませんが、この国からは少々遠くなってしまいます。

 いかがなされますか?」


「あの、そんなご迷惑をおかけする訳にはいきません。

 騎士様は目的があって魔竜境に来られたのではありませんか?

 それを邪魔する訳にはいきません」


「そうですね、目的はあります。

 私は魔竜を斃したいと思ってこちらに来たのですが、そもそも簡単に倒せるとは最初から思っていませんでしたから、一度国に戻るくらいなんでもありませんよ。

 それと私の事はルーカスと呼んでください。

 騎士様と呼ばれるのは少々気恥ずかしいです」


 何という事でしょう!

 ルーカス様は魔竜を斃そうとここにやってこられたのです。

 本当に魔竜がいると信じておられるのでしょうか?

 先程のルーカス様の強さを見れば、魔竜でも斃してしまわれるかもしれません。

 そう思う気持ちと同時に、魔竜とまで呼ばれる存在が、そもそも人間に斃せるのかという疑念があります。


 命の恩人のルーカス様を、疑念を見過ごして死なせる訳にはいきません。

 もっとルーカス様の強さと魔獣の強さを確認してからでなければ、魔竜と戦う事は避けて頂きたいと思ってしまいました。

 死なないでほしいという想いが、とめどなく心にわきあがります。

 私はこんなにも移り気な性格だったのでしょうか?

 ダニエルを愛していた心算でしたのに、今ではルーカス様の事が頭から離れず、ルーカス様の事しか考えられません!


「ルーカス様、どうか私をルーカス様の国に連れて行ってください。

 そして剣を教えてください。

 私がミアを斃せるようにしてください」


「お任せください、王女殿下。

 私が必ず王女殿下を、自ら悪人を成敗出来るようにしてみせます」


「あの、ルーカス様。

 私の事はイザベラと御呼びください。

 命の恩人であり、師匠になって頂くルーカス様に王女殿下と呼ばれるのは、とても気恥ずかしいのです。

 ですから、どうか、イザベラと御呼びください」


「ではイザベラ姫と呼ばせていただきましょう」


「待ってください、ルーカス様。

 姫と呼ばれては王女だと分かってしまいます。

 どうか他の呼び方でおねがいします」


「仕方ありませんね。

 王女殿下に剣を捧げるのが夢だったのですが、嫌だと申されるのなら諦めるしかありませんね。

 ではイザベラ嬢と呼ばせていただきます。

 話が決まったら直ぐに私の国に参りましょう。

 流石に魔竜と戦いながらイザベラ嬢を護るのは難しですから」


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