第2話

「本当に何もお持ちになられないのですか?」


「ええ、実質死刑判決を受けたのです。

 陛下と父の慰めのために、役にも立たない剣や食糧を受け取る気はありません。

 私は陛下と父に切り捨てられ、未開地に獣に喰われて死ぬだけです」


「カチュアお嬢様!」


「貴方たちは直ぐに王都に戻りなさい。

 ここで私を殺すように命じられましたか?

 それとも私を慰み者にして獣欲も満たすつもりですか」


「違います!

 私たちはそのような恥知らずではありません!」


「だったら直ぐに王都に戻りなさい。

 私にも矜持はあるのです。

 獣に喰い散らかされた遺体を見られたくはありません!」


「気が利かず申し訳ありませんでした。

 直ぐに立ち去らせていただきます」


 王都から百二十日。

 旅の疲れで少々苛立ってしまいました。

 命令に従うだけの家臣に当たってしまいました。

 でもそれくらいの事は許されると思うです。

 婦女子を護る誇り高き騎士といいながら、私を見殺しにする連中ですから。


 私は彼らが立ち去るのを待たずに、急いで未開地の奥深くに向かいました。

 やらなければいけない事があるのです。

 妹のイヴリンが放ったのか、それとも王太子のジェイコブが放ったのかはわかりませんが、刺客がずっと後をつけていました。

 私が未開地に入るのを確認するだけならいいのですが、そうではなく、私を確実に殺すためについてきているのなら、返り討ちにしなければいけません。


 死にかけて前世の知識を取り戻す前の私なら、返り討ちどころか、逃げることすらできなかったでしょう。

 それに、以前の私の性格なら、刺客に殺されかけても、人を傷つける事はできなかったでしょう。

 でも今の私なら、表情一つ変えずに何百人でも殺せます。


 問題は私を送ってきたマクリントック公爵家の家臣たちです。

 前世の私が知る、本当に誇り高い騎士とは違いますが、顔なじみではあります。

 私が魔法を使えるようになったことを彼らに知られたら、問答無用で殺さなければいけません。

 そして今の私は、秘密を守るためなら、平気で人殺しができます。

 殺したくないなら、私が魔法をが使えるようになった事を、彼らに知られないようにしなければいけません。


 刺客の数は二十人ほどです。

 家臣たちが去るのを待って、私を追って魔境に入ってきました。

 できるだけ魔境の奥で彼らを殺す。

 そう思って急いで奥に入っていくのですが、不思議な事に、刺客の気配、いえ、魔術による索敵から、刺客の反応が消えていきます。


 全反応が消えたのではないので、撤退したわけではないでしょう。

 私を襲っては来ませんが、未開地の獣が刺客を襲ったのでしょう。

 獣は賢いです。

 自分より強い者からは逃げます。

 私を恐れた獣には、刺客は美味しい獲物なのでしょう。

 この分なら、私が直接手をくださなくてもいいかもしれません。

 

 

 

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