第2話

「ここからは一人で行くがいい。

 卑怯未練な行いはしないように。

 魔竜境の出口はミアの騎士が護っているからな」


 国王が私を脅かします。

 とても父親とは思えない言動です。

 私を少しでも早く殺してしまいたいのでしょう。

 そして殺すと決めた私には、何一つ渡す気もないのでしょう。

 死出のはなむけを与えるという優しさの欠片もないのです。

 第一王女ともあろう私に、粗末な貫頭衣だけしか与えません。


 建前は魔竜様が生贄である私を食べ易いようにとのことですが、実際には私の持ち物を全てミアに与えるためです。

 ミアが欲しがったからです。

 いえ、私が一度でも使った物など、本心から使いたい訳ではないでしょう。

 私から奪いたいだけです。

 私から奪った物を身につけて、それを見て恐れる貴族を見たいのです。

 

 しかも私が逃げられないように、ミアの側近騎士が見張っています。

 彼らはミアに見込まれるくらい冷酷非情、極悪非道な性格です。

 私が逃げようとしたら、捕まえて散々嬲り者にするでしょう。

 醜い劣情の捌け口にするでしょう。

 ミアの側近はそういうモノばかりです。


「イザベラ、最後くらいは潔くしなさい。

 もうミアの邪魔をしてはいけませんよ」


 何と身勝手で歪んだ愛情でしょう。

 同じ腹から生んだ娘だというのに、姉の私には一切の愛情を与えず、除け者にして傷つけ踏みつけ殺そうとまでしています。

 妹のミアにためなら、誰を傷つけ踏みつけにしてでも欲しがるものを奪って与え、望めば人を殺す事すら厭いません。

 それで母親といえるのでしょうか?

 いえ、人といえるのでしょうか?


「わたくしは貴方たちとは違います!

 人として王族として恥ずかしくない生き方を選びます。

 魔竜の生贄になるのは望むところです。

 魔竜に願いましょう。

 この国の民を救ってくださいと!」


 国王と王妃が満足そうに嫌らしい笑みを浮かべています。

 私が全てを諦めたと勘違いしているようです。

 愚かな者達です。

 ごく一部の貴族が真っ青になっています。

 わたくしがこの国の民のために、魔竜に王族を皆殺しにして欲しい、国を滅ぼして欲しい、そう願うと気が付いたのでしょう。


 でも多くの貴族は憐みの視線を向けています。

 彼らは魔竜の存在を信じていないのです。

 確かにここは魔竜境と呼ばれてはいますが、本当に魔竜が住んでいるかどうか、確たる証拠はないのです。

 多くの強大な魔獣は確認されていますが、魔竜が討伐された事はありません。

 他の強い魔獣を魔竜と勘違いしている可能性もあるのです。


 ですが私は信じます。

 そして必ず魔竜の生贄になり、願いを聞き届けてもらいます。

 魔竜を探し当てるまでは、自分の手足を食べてでも生き延びてみせます!

 

 

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