第5話追放35日目の出来事2

「キャアアアアア!

 なんなのこのシミは!

 お前がやったのね?!

 お前の手入れが悪かったからこんなことになったのよ!

 この、この、この、この!」


 グストン公爵家令嬢ネヴィアは怒り狂っていた。

 侍女のお仕着せが切り裂かれ、肉が裂けるまで鞭をふるった。

 自分の顔に大きく濃いシミができたことが許せず、侍女の顔に醜い傷が残るように、顔にまで激しく鞭をふるった。


 ここ最近体調がすぐれなかった。

 便秘が激しく肌があれ体臭も強くなっていた。

 グストン公爵家お抱えの医師・治癒術師・美容師・調香師に命じて、便秘を治療するのはもちろん、肌荒れを隠すための厚化粧を施し、強い香水で体臭を誤魔化した。


 今体を休めるわけにはいかなかった。

 王太子の正妃の座を手に入れるために、三大公爵家の令嬢が激しく争い、太陽神殿に莫大な賄賂を贈り、聖女の称号まで手に入れて競っているのだ。

 自分だけではなく、他の二人の令嬢も、体力と精神力の限界まで競っている。


 それは他の令嬢の厚化粧と強い香水でもわかる。

 自分だけでなく、他の令嬢も体調を崩しても毎夜の舞踏会晩餐会に出席している。

 少しでも隙を見せたら、蹴落とされるのは眼に見えていた。

 どれほど辛く苦しくても、夜会を休むわけにはいかないのだ。

 連夜のダンスに身体が悲鳴をあげ、眠れないくらい節々が痛もうともだ。


「お前の顔など二度と見たくないわ!

 この者を屋敷から叩きだしなさい!

 お前達も叩きだされたくなければ、私の身体を癒しなさい!

 他の令嬢達に負けないように、私を磨き上げなさい!」


 無理無体な命令だった。

 人間の力など限られている。

 どれほど優秀な医師や治癒術師でも、治療を超える無理をすれば追いつかない。

 三十五日間連続も激しく深酒して遊び惚ければ、身体がボロボロになって当然だ。

 医師も治癒術師もそう考えていた。


 だか命令に反すれば理不尽に鞭うたれて解雇される。

 三大公爵家に睨まれ解雇されたとなれば、もうこの国で再就職は不可能だ。

 だから無理をすることになる。

 通常なら使わない劇薬を使って痛みや疲れを抑え込み、見た目を誤魔化した。

 時に幻術の魔法や後遺症のでる薬まで使って、見た目を整えた。


 だがボロボロになっているのは令嬢達だけではなかった。

 エリオット王太子の身体もボロボロになっていた。

 健康を取り戻したはずのエリオット王太子だが、連日の放蕩で身体の節々は痛み、夜も満足に眠れなかった。


 眼の下にははっきりとした隈が浮かび、肌は荒れ、抜け毛が多くなっていた。

 時に眼がかすみ、激しい耳鳴りに襲われることもあった。

 四肢が震え、ダンスの時ばかりか、普通に歩いている時も躓いた。

 だが、それでも、遊ぶことを止められなかった。

 生れてからずっと、ベットに縛り付けられるように生きてきたのだ。

 ようやく健康になって遊べるようになったのだ。

 国王や王妃の注意も聞かず、今日も取り巻きを引き連れて、令嬢達と遊び惚けるのだった。

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