第6話
「いらっしゃい!
今日も来てくれたんだ、ギュンター、ルーベン。
こっちに来て一杯やってよ」
「あ、ああ。
そうさせてもらうよ」
「ありがとう、アンナ。
遠慮せずに一杯やらせてもらうよ。
他の店も繁盛していたよ。
どの店もアンナが煮込みを作っているのかい?」
「そうよ。
どの店も私が味を確かめてるの」
アンナはイワカムツカリの聖女として、その力を隠さずに発揮した。
料理の祖神で、醤油神や味噌神などといった醸造の神であるイワカムツカリ神の力を使って、味噌をたった三日で大量に作り、味噌煮込み料理を完成させた。
それをベイク組が持っていた店で売り出し、大繁盛させていた。
だがそれには、どうしようもない事情があったのだ。
犯罪者ギルド、ベイク組が壊滅した後で、どこにも行き場のない売春婦や孤児がたくさんいたのだ。
ベイク組に売られるような女性は、実家に帰ってもまた売られるだけだった。
そしてスリなどをさせられていた孤児達には、犯罪者ギルド以外に行き場がない。
だからアンナはギュンターとルーベンを説得して、二人に新たな犯罪所ギルド、ギュンター組を立ち上げさせたのだ。
だからといって、あくどい商売をさせる気はなかった。
ありふれたシチューと味噌煮込みとソーセージをだし、エールを飲む居酒屋を開店して、そこで元売春婦と孤児を働かせて、最低限飢えないようにしたのだ。
だが、まあ、アンナとギュンターの想いとは裏腹に、売春婦の中には、暴力をふるわれることなく売春料金が半分も手に入るのなら、喜んで売春を続けるという割り切った女達が多かったのだ。
その点の交渉は、アンナとギュンターには荷が重かったが、そこは頭が切れて女性の扱いに長けたルーベンが全部引き受けてくれた。
王城内の黒幕はともかく、警備団長や警備隊長達に賄賂を贈り、女達と孤児達を守り、商売を続けるために必要な経費がどれくらい必要か。
万が一王城内にいる黒幕達が動いた時に、どのくらいの金が賄賂に必要なのか、女達や孤児達に分かるように説明した。
その結果、今まで銅貨一枚も手にすることができなかった女達が、売春料金の半分を手に入れられるようになった。
暴力を伴うような、特殊な売春を受けなくてすむようになった。
孤児達も、捕まった時に殺されるような犯罪をしなくても、居酒屋の手伝いをするだけで、ちゃんと食べられるようになった。
アンナとギュンター以外は全員が納得し幸せになれた。
まあ、アンナも頭では分かっていた。
養父母達の愛情のお陰でやらなくてよかったが、この都市の居酒屋のほとんどは、女給が売春婦を兼ねていたのだ。
最後まで悩み苦しんだのはギュンターだけだった。
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