第15話

 グルグルグルグ。

 グゥグゥグゥグウ。


 アカとアオが甘えてきます。

 甘えるといっても、巨大な天虎です。

 本気で甘えられたら、私などぺちゃんこにされてしまいます。

 ちゃんと力加減をしてくれています。

 声をだすだけで、むしろ私に撫でさせてくれるのです。

 背中は強固な剛毛ですが、お腹の毛はとても柔らかで、触ると気持ちいいのです。

 アオとアカに挟まれて眠ると、とても寝心地がいいのです。


 でも、侍女たちはまだ怖いようです。

 アオとアカが泣き声をあげるたびに、ビクッとしています。

 アオとアカに全幅の信頼を置いて、全く動じないのはジョージだけです。

 豪胆というほかありませんが、少し心配でもあります。

 私を信じてくれているのでしょうが、もう少し警戒した方がいいです。

 もっとも、私以外の人間には警戒心が厳重なようですが……


「ご城代!

 団長!

 閲兵式の準備が整いました!」


「分かりました、直ぐに参ります」

「ご苦労!

 今行く」


 私とジョージは、新たに集まった者たちに対する閲兵を行います。

 私の私兵団ですから、謁見ともいえるかもしれません。

 まだジョージはマクリントック公爵家第二騎士団騎士団長ですが、いずれはオリビア騎士団団長に就任するのです。

 自分の名前を冠した騎士団は少々恥ずかしいですが、慣れないといけません。

 堂々と接しなければいけません。


 今はまだ仮の編成ですが、マクリントック公爵家第二騎士団に入れて訓練したなかから希望者を私の家臣としますが、分家の家臣となりますので、陪陪臣となります。

 実質はともかく、格下に見られてしまいます。

 士族であることに変わりはないのですが、本家に仕える騎士や徒士の中には、陪陪臣を格下に見る者がいるので、今本家で準男爵や騎士の地位を得ている者は、仕えてくれないことが多いのです。


 そういう点でも、ジョージは奇特な存在です。

 ジョージはマクリントック公爵家の分家であるジョーンズ準男爵家の長男で、準男爵家の跡継ぎなのです。

 私が臣籍降下すれば、同格になるのです。

 好き好んで同じ分家に仕える事はないのです。

 私が準男爵の地位しか得られない場合は、騎士にしかなれません。


 もっとも、私も父上もそんな地位にとどめ置く気はありません。

 ジョージの気持ちは、婚約解消となった私にはありがたいものです。

 情熱的な恋愛など、貴族令嬢にはもともと縁のないモノです。

 政略結婚して、跡継ぎとなる子供を幾人か産んでから、愛人と人生を楽しむ。

 それが貴族の結婚であり恋愛です。


 私はそんな穢れたことをする気などありませんが、そういうモノだとは理解しています。

 ジョージのように純粋に想ってくれる男性と出会えた事は運がいいことなのです。

 私が同じような想いを抱けない事が申し訳ないくらいです。


「ザカリー騎士長殿。

 オリビア騎士団への転属を希望!」

 

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