第19話

「おんぎゃあ、おんぎゃあ、おんぎゃあ」


「まあ、まあ、まあ、まあ。

 皇太子妃殿下、私がお乳をさしあげましょうか?

 殿下がお乳を差し上げられますか?」


「私があげたいわ。

 乳母たちは公務と就寝時の授乳をお願いするわ」


 私は幸せです。

 御子を授かりました。

 しかも第一子から男の子を授かったのです!

 皇帝陛下が直々にアレハンドロと命名してくださいました。

 これで皇室も皇国も安泰です。

 とは断言できないのが権力者の哀しく辛い所です。


 最初から織り込み済みの事ですが、毒殺や呪殺を警戒しなければいけません。

 まあ、私やルーカス様も十分警戒しています。

 アレハンドロだけではなく、自分たちの安全にも十分配慮しています。

 皇帝陛下も皇后陛下も、自分たち警備を弱めても、アレハンドロのために魔道具の再配置をしてくださいました。


「皇太子殿下!

 まだ愛を交わすのは禁止でございますよ。

 皇太子妃殿下の御身体を考えてください」


「そうは言うが、魔法で治っているではないか。

 体力も魔法で回復している。

 だったらもう大丈夫であろう」


 相変わらずルーカス様の愛が激しいです。

 皇室の決まりがなければ、黙って愛を交わす事も可能なのですが、そんな事をして記録のない子供を懐妊してしまうと、御子が不義の子と疑われ、いえ、私を追い落としたい貴族共に捏造され、攻撃されてしまうかもしないのです。

 愛を交わすのは、絶対に記録係の前で行わなければいけませんし、日時も公式記録に残さなければいけないのです。


「大丈夫ですよ。

 ルーカス様もお辛いでしょう。

 私のために他に皇后も九嬪も置かず、私だけを愛してくださっているのです。

 少々愛が激しくなるのは仕方ありません。

 急いで用意してくれますか」


 正直に告白すれば、私もルーカス様の愛を待っています。

 愛を交わすこと自体も、ルーカス様の愛を確認できるのでうれしいですが、求められるだけでもうれしいのです。

 将来の皇后としては身勝手だとは分かっていますが、ルーカス様が他の女性を側に置かれない事に幸せを感じてしまいます。


「朕はここに宣言する。

 皇太子ルーカスの第一子アレハンドロを皇太孫に任ずる。

 みなそのつもりで仕えるように」


 皇帝陛下が、零歳児のアレハンドロを皇太孫に任じてくださいました。

 普通は有り得ないことです。

 普通なら最短でも成人が認められてからです。

 アレハンドロが狙われないようにとの配慮でしょうか?

 それとも佞臣叛臣をあぶり出すためでしょうか?

 できることなら、もう少し時間をかけて、安全を確保してから任じて欲しかったですが、これも皇太子妃の責任だと思うしかありません。


「大丈夫でございますよ、皇太子妃殿下。

 恐らく殿下は懐妊されています。

 その噂は既に宮中に広まっております。

 アレハンドロ皇太孫殿下だけを弑逆しても目的は達成できない状態でございます」


 私は本当に幸せ者です。

 ルーカス様はもちろん、皇帝陛下も皇后陛下も、仕えてくれている者達も、私とアレハンドロの事を大切にしてくれています。

 私も幸せをお返ししなければいけません!


 


 


 

 

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