第9話追放38日目の出来事。
「テーベ様!
髪の根元が黒々としてきました。
艶々になっています。
声も、声も張りがでてきました」
「よかったね。
もっと髪が伸びたら、傷んだ髪は切ってしまおうね。
僕は髪を切るのも上手いんだよ。
アリスの望む髪型にしてあげるよ」
アリスは喜びに打ち震えていた。
女性にとって髪はある意味命だ。
容貌が美しく、身なりを整えても、髪が汚くては台無しだ。
だが髪を整える事は一朝一夕にはできない。
艶のある健康な髪を保つには、毎日の食事が大切になる。
日々の食事にも事欠くようでは、髪に艶など望むべくもない。
それは頭皮も同じで、栄養状態と手入れが悪ければ、フケだらけになる。
無理な治療を行った事で老化していたアリスは、髪が抜けて禿げていた。
わずかに残っていた髪も、白くボロボロだった。
だが今のアリスには、新しい髪が生えていた。
頭皮も健康で、フケなど一つもなかった。
まあ、月神テーベが舐めるように可愛がるのだから、フケなどあるわけがない。
傷んだ髪を切ってしまう事もできたのだが、王家の裏切りと怒りを忘れないために、テーベが残していた。
一方テーベの怒りで報復を受けている者達は……
「きゃぁぁあああ!
髪が!
私の髪が!
なにをしていたの!
どうして私の髪が抜けるの!」
グストン公爵家令嬢ネヴィアは半狂乱になっていた。
異様に頭が痒くなり、無意識に頭をかいてしまった。
普通なら侍女に髪を梳かすのだが、命じる時間が待てないくらい痒かった。
掻いた瞬間、髪がごっそりと抜けてしまった。
床一面に自分の髪が散乱しているのが目に入った。
「鏡よ!
急いで鏡を持ってきなさい!
なにをしているの?!
グズグズせずに直ぐに鏡を持ってきなさい!」
癇性が激しくなり、事あるごとに侍女を鞭打つネヴィアを恐れた侍女の一人が、何も考えずに急いで鏡を持ってきた。
だがネヴィアの姿を見た侍女は固まってしまった。
あまりに衝撃的な姿に、鏡を持ったまま固まってしまった。
ネヴィアの髪の毛がごっそりと抜け落ち、所々禿てしまっていたのだ。
「何をグズグズしているの!
早く渡しなさい!
この役立たずが!」
公爵家に相応しい、曇りひとつない、完璧に磨き上げられた銀の手鏡を侍女から奪って、自分の姿を見たネヴィアの眼に映ったのは醜くまだらに禿た自分の姿だった。
侍女は身構えていた。
また理不尽に鞭うたれると覚悟した。
今もまだ昨日、いや、毎日のように鞭うたれた傷が痛む。
一度顔を鞭打たれ、その傷を見た公爵閣下と奥方様がネヴィア嬢を厳しくたしなめてくれたが、それからは服の下を鞭打たれるようになっていた。
だが今日は鞭うたれなかった。
自分の無残な姿に衝撃を受けたネヴィアが、その場に卒倒したからだ。
侍女は心底ざまあ見ろと思っていた。
少しでも早く、この事実を侍女仲間に話して、王都中の笑い者にしてやると、心に誓っていた。
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