第10話追放39日目の出来事

「陛下、資料の整理ができました。

 陛下の命令で、十年前から貢物の量が減っておりました。

 建国当初の量で充分だと仰られる陛下に従い、徐々に減らしておりました」


 重臣達は不眠不休で月神の怒りを買った原因を探していた。

 内心では、癒しの聖女を理不尽に扱った事が原因だと思っていた。

 いや、理解し分かっていた。

 分かってはいたが、それを口にしたら、国王の不興を買い、家は確実に取り潰され、最悪家族もろとも処刑されることも覚悟しなければいけない。

 だからでっちあげられる他の原因を探して、貢物の量とした。

 だが同時に、自分達に責任を押し付けられないように、その原因が国王の発案だったと念押しした。


「ふん!

 慈愛の神といいながら欲深い事だ!

 貢物の量が減ったからといって守護の約束を破るなど、身勝手にもほどがある」


 誰も何も言わなかった。

 一番身勝手での欲深いのは国王だと内心思っていた。

 だがみな自分や家族が大切なので、保身のために何も言わない。

 だが内心では、この国は終わりだとも思っていた。

 神官達のように急いで逃げなければ、国の崩壊に巻き込まれると考えていた。


 だが重臣同士で逃げる相談などはしていなかった。

 そんな事を最初に口にして密告されたら、国王に処刑されてしまう。

 屋敷に戻って話しても、入り込んでいる密偵に伝わる可能性がある。

 急いで、でも深く静かに、逃亡計画を練っていた。

 みな権謀術数渦巻く王宮で重臣にまで登り詰めた者達だ。

 秘密を守る方法も、裏で動く方法も、身の安泰を図る方法も、身についていた。


 実は国王自身も、自分が癒しの聖女を裏切ったことで守護神から見限られたことは、重々承知していた。

 そんな事が分からないほど知恵が足らない訳ではない。

 問題は性格というか、プライドと言うか、教育と言うか。

 国王として威厳を保たないといけないという間違った考え方だった。

 長く繁栄した国がよく陥る、定番の滅亡パターンだった。


 神様がいて、その守護があって、初めて建国できているという、この世界の根本的な仕組みを忘れてしまうのだ。

 長年王家として民を統治しているうちに、自分達王族の力で国が護られ治められていると、驕り高ぶってしまうのだ。

 王族は上手く神を利用しているこれからも利用し続けられると思ってしまうのだ。

 人間の業というべきか、それとも宿痾というべきか。


 だから分かっているのに改められなかった。

 月神に謝るのではなく、貢物をくれてやるという態度をとってしまう。

 特に家臣たちの前では、強がってしまうのだ。

 だが謝れば許してもらえるかといえば、そうではない。

 もう手遅れで、完全に月神から見捨てられていた。

 だから国王がどのような態度をとろうと、この国が一度滅ぶことは避けられない。

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