第3話

「いくぞ、ルーベン」


「しかたありませんね、やるしかありませんね」


 ギュンターとルーベンは、犯罪者ギルドのアジトに襲撃する決断をした。

 たった二人で乗り込むなんて、命知らずである。

 普通に考えたら、討ち死にするのが普通だ。

 それでも、万に一つの可能性を信じて乗り込むのだ。

 生死を超越した男の顔には、清々しい美しさがあった。


「ちょっと待って。

 これを持って行って。

 以前お客さんからプレゼントしてもらった魔法薬よ。

 これを飲んだら一切疲れないそうよ。

 こっちはどんなケガでも治る魔法薬よ」


 アンナはギュンターとルーベンに魔法薬を渡した。

 嘘偽りなく本当の魔法薬だ。

 この魔法薬一つで、軽くギュンターの年収十年分を超える。

 そんな魔法薬を、孤児院出身のアンナが持っているわけがない。

 それが常識なのだが、アンナの表情は真剣だった。

 嘘や冗談を言っている表情ではなかった。


「ありがとう。

 感激だよ!

 ケガをしたら使わせてもらうよ」


 ギュンターは全く疑わなかった。

 ひとめ惚れしたアンナからプレゼントをもらって、偽物かもしれないと疑えるほど、恋愛慣れしていない。

 全て信じて受け入れる、純情な男だった。


 だがルーベンは違った。

 子供の頃から女の子にもてる人生をだった。

 だから常識的に考えて、アンナが魔法薬を持っているはずがないと分かる。

 それにルーベンはアンナに恋している訳ではないので、冷静にアンナの表情を読み判断で来る。


 アンナの表情に嘘偽りはなかった。

 真剣に、自分のために命を捨てて戦ってくれる男達の事を心配していた。

 女の事をよく知るルーベンだからこそ、アンナの事を信じる事ができた。

 常識では信じられない事でも、信じることにした。

 本気で真心を尽してくれる女は、絶対に嘘は言わない。


「分かったよ。

 ケガをした時と疲れた時に使わせてもらうよ」


 アンナは二人になら自分の正体が知られても大丈夫だと思っていた。

 イワカムツカリ神に選ばれた聖女であることを、知られても大丈夫だと。

 今までは誰一人知らせず、ずっと秘密にしていた事だった。

 知られたら、王侯貴族や神殿に囲い込まれて、一生飼い殺しにされる事が分かっていたので、聖女の力を使わずにいたのだ。


 聖女の力とは言っても、本来なら料理の神、醸造の神であるイワカムツカリ神の力は限られていた。

 居酒屋に引き取られるのは最適だが、戦闘や治療に向く汎用性のある力ではない。

 ところがアンナは賢く研究熱心だった。

 酒を醸造する時に、色々な薬草を加える事で、今までにない高品質な魔法薬を創り出すことに成功していたのだ。

 

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