第10話

 私がジョージとの相談を終えた時に、父上の使いが報告にやってきました。

 その慌てぶりに、私もジョージも瞬時に緊張してしまいました。

 なにかとても悪い事が起きたのだと分かったからです。

 最初に浮かんだの父上と母上の安否です。

 王太子とアイラを面罵してくださったお二人は、逆恨みされている可能性が高いのです。


「落ち着きなさい。

 エミリー、この者に水を」


「はい、お嬢様」


 エミリーが、私のいる場所に常備されている水差しから水を杯に注ぎ、大きくあえいでいる伝令に渡してくれます。

 声がかすれるほど疲労困憊していた伝令が、水を立て続けに三杯飲んで、ひと心地ついてから話しだしました。


「ありがたき幸せでございます。

 公爵閣下の命を受け、オリビアお嬢様が王太子から賜られた領地を調査しておりましたが、王太子の圧政により再建が難しいほど荒廃しておりました」


 予想通りですね。

 あの王太子の事ですから、遊興費欲しさに民から搾りつくしたのでしょう。

 ですが、再建不可能というのは解せません。

 マクリントック公爵家が助力してできないことは少ないと思うのですが。


「なぜですか?

 マクリントック公爵家の力をもってしても再建が難しいとは、どういう状態なのですか?」


「民が、民がおりません。

 王太子は理不尽な法を作り出し、民を全て奴隷に落とし、売り払っておりました。

 そのためここ数年は農地を耕作する者が誰もおらず、農地が荒れ地と化しており、農地を元の状態に戻すだけで数年かかると思われます」


 下種です!

 あまりにもひどすぎます。

 王太子が王位を継いだら、全国民が同じように奴隷に落とされ、他国に売られてしまうかもしれません。

 この国の将来は真っ暗です!


「ですが、だったら、今まで王太子はどうやって収入を確保していたのですか?

 ここ数年耕作する者がいなかったのなら、収入はなかったでしょう?」


「借金でございます。

 王太子は自分の台所領を担保に、いろんな貴族から借金を重ねています」


「それでは、私が拝領される領地はどうなるのですか?

 借財の担保になっている以上、王太子に金を貸している貴族に渡さなければいけないのではありませんか?」


「そういう意見も出ていると聞いています。

 ですが、一つの領地を幾人もの貴族に貸しているのです。

 誰を優先する事もできない状態だそうです」


 本当の恥知らずです。

 どうすればいいいのか、国王陛下も大臣たちも頭を抱えていることでしょう。

 私も困ります。

 領地を拝領していただける前提で準備すればいいのか、それとも拝領していただけない前提で準備しておくべきなのか。


「単刀直入に聞きますが、私は領地を拝領していただけるのですか?」

 

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