第8話
「最初にこの魔術巻物を見てください。
この魔法陣がどういう意味なのか分かりますか?」
私は最初に初級下の火炎魔法の魔術巻物をアスキス家の人達に見せました。
誰もその意味が理解できませんでした。
長年の逃亡と隠棲の生活で、口伝の詠唱以外失ってしまったのだそうです。
その詠唱も、所々発音も言葉も間違っています。
これでは唱えても魔術は発現しません。
ですが彼らには魔法を発現させて確かめることができないので、間違っている事も確認できないのです。
「では順番に心のなかで私の教えた呪文を唱えてください。
それでも発現しなかったら、実際に言葉にしてみてください」
私の指示通り、家族で順番に魔術巻物に手を置いて、確かめてくれました。
無詠唱と詠唱有で確かめてもらいました。
でも家族の誰も魔術を発現させることができませんでした。
詠唱に間違いがない事は、この耳で確かめています。
魔族なのに魔力がないのは確かです。
でもこの世界に魔力が戻っているのは、私が魔術を使えているので間違いありませんから、次の実験に移ることにしました。
「次はこの魔術書を使って同じことをしてもらいます。
狙いはさっきと同じで薪です」
何故最初に初級下の火炎魔法を選んだかと言えば、薪に火をつけるためです。
凄く寒いわけではありませんが、料理をするにも火は必要です。
今は私がいるので扉を開けていますが、私が家に戻るなら、魔獣に襲われないように、厳重に扉をしめないといけません。
そうなると横穴洞窟は真っ黒になってしまいます。
私が強引に入り込んだ時のように。
長期間の窮乏生活で、火を熾す薪すら不足していたようです。
今は私が魔法袋に入れていた薪を大量に差し上げたので、常時焚火をすることが可能です。
今のアスキス家の人達の体調では、水も食材も、火を通した方がいいです。
それくらい体が弱っています。
「うわ!
火だ!
火がでた!」
アスキス家の祖父、ジョージが年甲斐もなく騒いでいます。
ですがそれも仕方がないのかもしれません。
生れて数百年、初めて自分で魔術を発現させたのです。
驚き慌てるのが普通ですね。
でもこれで確認できました。
魔力を蓄えた魔晶石を装備した魔術書を使えば、魔族は魔術を発現できます。
ではそれが全ての魔族に当てはまるかです。
一家族十四人では被験者数が少なすぎますが、今は仕方ありません。
これから魔族を探して実験を重ねていくだけです。
いつか、人間でも実験しなければいけないでしょう。
人間に生まれた私が魔術を使えるのですから、人間も使える可能性が高いです。
ですが、その検証相手は慎重に選ばなければいけません!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます