第5話

 雄叫びと共に現れたのは、二メートルを超える身長の人型です。

 私にはそれが噂に聞いたトロールなのかオーガなのか分かりません。

 ただ訳もなく恐怖に身体が固まってしまいました。

 ですが、私にも意地があります。

 金色の騎士様の手助けがしたいです。


 助けて頂いた御陰で、少しは回復したと思うので、残る魔力を集めて心臓に叩き込めば、斃す事ができるかもしれません。

 私がそう考えて魔力を集めようとすると、騎士様が言葉をかけてくださいました。


「心配しなくでも大丈夫ですよ、王女殿下。

 この程度の相手なら、片手で十分斃せます」


 金色の騎士様はさわやかな笑みを浮かべておられます。

 助けて頂いておいて心配してはいけないのですが、心配してしまいます。

 トロールやオーガは、とても生命力があると聞いています。

 金色の騎士様は本当に片手の一撃で斃せるのでしょうか?


 私の疑問や心配は大きなお世話でした。

 金色の馬が滑らかに滑るように移動したかと思うと、トロールかオーガか分からない化け物は、頭を失い首の切り口から血を吹きだしていました。

 金色の騎士様が槍を振るったところなど見えませんでした。

 眼にも見えない槍さばきとは、この事を言うのでしょう。


「しかし、どうして王女殿下ほどの方が、このような姿でこのような場所におられるのですか?

 なにかお困りの事があるのなら、教えてくださいませんか?

 騎士として、お手伝いできる事ならば、手助けさせていただきます」


 苦境で、このような優しい言葉をかけて頂いて、肩ひじ張っていた力が一気に体中から抜けてしまい、身も世もなく泣き崩れてしまいました。

 それを金色の騎士様が優しく抱きしめてくださいました。

 その優しさを感じて、また号泣してしまいました。

 とても恥ずかしい姿を見せてしまいましたが、その御陰で体裁を気にしないですむようになりました。


 ですから、王家王国の恥になる事ですが、正直に全てお話しました。

 金色の騎士様の母国で、ヴェイン王家の評判は地に落ちるでしょうが、自業自得ですからしかたありません。

 それよりも、金色の騎士様にご迷惑をおかけする訳には参りません。

 ミアの事ですから、金色の騎士様が王国領を訪れられると、評判を聞いて王城に呼びだすに決まっています。


 呼びだすだけでなく、色目を使って誘惑する事でしょう。

 そじて同じように誘惑した騎士同士を殺し合わせて、暗い愉悦に浸るのです。

 金色の騎士様が誘惑に負けるとは思いませんが、その場合は自分の魅力が通用しなかったことに怒り狂ったミアが、金色の騎士様を殺そうとするでしょう。

 どちらにしても金色の騎士様はヴェイン王国に入国しない方がいいのです。


 

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る