第9話
「まずはこの森で実戦訓練します。
生き物を殺すには慣れが必要になります。
イザベラ嬢には復讐するという明確な意思がおありなので、躊躇いなどないかもしれませんが、一瞬の遅れが死につながります。
躊躇いなどあってはいけないのです」
「はい!
躊躇いません。
ですが、その、罪の無い民を巻き込むのは……」
「分かっていますよ。
そのような事は騎士の名にかけてさせませんよ。
安心されて下さい。
ですが、イザベラ嬢を陥れた貴族士族は別です。
彼らに雇われてイザベラ嬢に剣を向ける者も同様です。
身分は平民でも、金で人の命を奪おうとする者は良民とは言えません、
そのような者は、人の形はしていても人ではありません。
そんな人擬きは情け容赦なく殺してもらいます」
「分かりました。
ルーカス様のお言葉に従います。
相手の見た目が可愛い生き物でも、躊躇わずに殺します」
そうは口にしましたが、実際には時々躊躇してしまいました。
あまりにも人に似た鬼種がいたのです。
全身毛だらけだったり、肌が鱗で覆われていたり、とても人とは思えない緑の肌だったりすると、人とは思わずに殺す事ができました。
ですが人に似た鬼種の場合は、一瞬躊躇ってしまいます。
そのたびに魔法の発動が遅れてしまい、ルーカス様から厳しい注意を受ける事になってしまいました。
ですがその厳しい注意のなかに、温かい思いやりがるのが分かるので、叱られたいという想いが心の奥底に湧いてしまいます。
魔竜境で斃したコボルトは、五十頭の群れを一瞬で全滅させられるようになり、同じように五十頭くらいの群れを作るゴブリンも、一瞬で全滅させられます。
オークは二十頭くらいの群れしか作らないのですが、五十頭いたとして、いえ、百頭いたとしても同じ魔力で全滅させられます。
生命力が強く、ケガした所を再生してしまうオーガやトロールも、急所に的確に魔法を叩き込めれば、同じ魔力で百頭同時に斃せるようになります。
いえ、今以上に細やかな魔力調整が出来るようになれば、逃げたリ避けたりする百頭の急所を狙えるようになれば、もっと少ない魔力で百頭を同時に斃す事が出来るようになると、ルーカス様は教えてくださいました。
実際にそれが可能だという事は、ルーカス様が手本を示してくださいました。
その速さと強さは、眼を見張るモノがありました。
最初に出会った時は、魔竜を斃すなんてどれほど強い方なのか、それとも自信過剰な方なのか、判断できませんでした。
無償の愛で助けて頂き、自信過剰な方ではないと理解できましたが、どれほど強いのか分かっていませんでした。
ですが手取り足取り魔法を教えていただいて、上級魔法使い並みだと言って頂けるようになって、ようやくルーカス様の強さに畏怖する事ができるようになりました。
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