第3話

「御嬢様。

 後をつけている者達がおります。

 恐らく刺客だと思われます」


「無理をしないでください。

 勝てないと思ったら、私を捨てて逃げてください」


 本気でそう思っています。

 本来なら、一人で放り出されていたところです。

 哀しく寂しい心で、一人国外を目指していたはずなのです。

 それが四人で国外を目指しているのです。

 もう十分です。

 私のためにエスメもアバもハリーも、死なせるわけにはいかないのです!


「御嬢様、情けないことを申されますな。

 御嬢様が私達のことを想って言ってくださっているのは分かります。

 ですが私達は、自分の命より御嬢様を選んだのです。

 水を差すような言葉は、誇りと忠誠心を傷つけるのですよ。

 ここは『共に戦って逃げ切りましょう』そう言って士気を高めるのです」


 久しぶりにエスメに叱られてしまいました。

 なんだかうれしいです。

 でもエスメの言う通りです。

 三人を大切に思っての言葉であっても、忠誠心を踏み躙ってはいけませんね。


「分かりました。

 叱ってくれてありがとう。

 うれしかったわ。

 私も戦います。

 刺客を蹴散らして、四人無事にこの国から出て行きましょう!」


「「「はい」」」


 口ではエスメの助言通り勇猛な言葉を吐きましたが、勝ち目が少ないのは間違いありません。

 刺客はエスメ、アバ、ハリーが加わった事とを知っています。

 情けないことですが、国王やアメリアに通じている家臣もいるのです。

 三人の力を考慮して刺客を送り込んでいるでしょう。


 力を出し惜しみしている場合ではありませんから、私も今まで隠していた力をだして、全力で戦わないといけません。

 一人子の私は、オレンモア侯爵家の跡継ぎに相応しい力が必要でした。

 同時に敵対する者達に力を知れてもいけませんでした。

 婿に迎える相手すら、心から信用する事が許されない立場でした。


 まあ、オレンモア侯爵家を手に入れたかった国王と第一王子によって、第一王子と婚約させられてしまいました。

 一人目の男子は王国を継承し、二人目の男子は公爵家に陞爵されたオレンモア家を継ぐという、甘言に乗せられた父上と私が愚かだったのですが……


「馬車には私が護りの魔法を展開します。

 アバは馬車の制御に専念してください。

 ハリーは前に立ちふさがる刺客を排除してください。

 エスメは追いかけてくる刺客を撃退してください」


「「「はい」」」


 アバは一番身近にいてくれる侍女ですが、同時の護衛役でもあります。

 当然乗馬もできますが、御者もお手のものです。

 魔法も使えれば戦闘術も心得ています。

 エスメも同じです。

 乳児の私を護り育てる乳母ですから、アバと同じように全てを心得た、得難い戦闘侍女です。

 ハリーは戦闘に特化した守護騎士ですから、並の騎士相手に負けたりしません。

 刺客が相手でも遅れなどとらないと信じています。

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