第17話

「ここまで準備が整ったら、次の段階に行ってもいいだろう。

 このままでは魔族が滅んでしまうからね。

 他の魔族が生き残っていないか、大陸を超えて探さないとね」


 アルフレット様がそう口になされたのは、大城塞都市を造り始めて一年と少し経った頃でした。

 私は幸せな時間が終わる恐怖に囚われました。

 またアルフレット様に捨てられるかもしれないと思ってしまったのです。


 本当は捨てられたわけではないと分かっています。

 一人前になれば、親離れしなければいけないのは分かっています。

 でも無理なのです。

 分かっていても親離れしたくないのです。

 ずっとずっと側にいたいのです。

 できる事なら、妻にして欲しいのです。

 

 無理なのは百も承知です。

 単なる願望です。

 絶対にかなう事のない願望です。

 魔族の王族に連なるアルフレット様が、人間を妻にするわけがないのです。

 まして魔族が滅びるか滅びないかの重大な時期です。

 人間との間に混血児を作るよりも、アスキス家の女との間に、できるだけ数多くの子供を作らないといけないのです。


 その事は、アスキス家の人達も理解しています。

 段々魔族が減り、血が濃くなりすぎる危険をしりつつ、恐怖と戦いながら子孫を残したのが、今のアスキス家です。

 ハリーという従兄に、アメリアとエミリーの姉妹が妻となっているのです。

 それ以前からとても濃い血の婚姻を繰り返しているのです。 

 アルフレット様との間に子供を作ろうと考えるのが自然な流れです。


「私も連れて行ってください。

 もうアルフレット様と離れ離れになるのは嫌です。

 絶対に嫌です。

 必ずお役にたって見せます」


 私にとって、アスキス家の事など、正直どうでもいいのです。

 アルフレット様への想いと恩があったから助けたのです。

 アルフレット様本人と再会できたら、もうアスキス家には興味もありません。

 魔族の復活というアルフレット様の願いがありますから、必要な支援は惜しみませんが、アルフレット様と離れ離れになってまで助ける気はありません。

 やはり私は人間です。

 身勝手で強欲な人間なのです。


「分かったよ。

 もう独り立ちしなさいとは言わないよ。

 だけどそれではアスキス家の防備が心配かな?

 もう少し紙兵を増やしておいた方がいいかな?」


「分かりました。

 魔獣をたくさん狩ります。

 獣皮紙を作って、それで紙兵を創りましょう。

 それで大丈夫ではないですか?」


 私はアルフレット様に提案しました。

 今の生活がとても幸せなのに間違いはありません。

 ですが、アスキス家の人達と一緒です。

 身勝手で強欲な私は、前世の幼い頃のように、アルフレット様との二人っきりの生活を渇望していたのです。

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