第22話

「もう大丈夫そうだね。

 これだけ魔晶石と魔竜皮紙の魔法陣が揃えば大丈夫だ。

 まずは十人ほどの魔族を蘇らそう」


「はい、アルフレット様」


 私は内心の動揺を抑え、その動揺を表情に現さないようにしました。

 言葉では簡単に返事しましたが、内心の不安と恐怖は尋常一様ではありません。

 蘇る魔族の人達の人間への恨みと憎しみは、どれほどのモノでしょう?

 ミイラ化するまで眠らなければいけなかった魔族の方々です。

 同じ人間の私を恨み憎んで当然なのです。

 人間なら間違いなく恨み憎み報復に走ります。


「やあ、おはよう。

 お互い大変だったね。

 ここにいるのが私の養い子の転生者で、私達の恩人だ。

 その心算で接してくれるとうれしいな」


 私の不安と恐怖は杞憂でしかありませんでした。

 魔族の方々は、これほどの状況に追い込んだ人間種の私を許してくれました。

 それどころか、蘇生を助けた救助者として遇してくれました。

 人間の本性、自分の本性を嫌というほど知っている私は、穴があったら入りたいほどの羞恥を感じていました。


 ですが、羞恥心に囚われている場合ではないのです。

 これから何万人もの魔族を蘇らせなければいけません。

 考えている時間も立ち止まっている時間もないのです。

 できるだけ多くの魔竜を養殖して、魔晶石と魔竜皮紙を創り出さないと、魔族の方々を蘇らせられないのです。


「アルフレット様。

 戴冠されないのですか?

 魔族の王国が建国された事を宣言された方がいいのですあありませんか?」


「今はまだ早いよ。

 人間が未開地に入ってこれるとは思わないけれど、どこかに魔族の末裔が生き延びているかもしれない。

 角を落とし、耳を削ぎ、尻尾を断って隠れ暮らしているかもしれない。

 そんな人達を追い込むわけにはいかない。

 建国を宣言するのは、少なくとも冬眠している人達を全員蘇らせてからだよ。

 それに、もしかしたら、私以外の王族が生き延びているかもしれない。

 正当な国王陛下や王位継承者が生きているかもしれない。

 何とか生き延びた魔族同士で争うのは嫌なのだよ」


 最初の十人の一人が、アルフレット様に王になるように勧めましたが、アルフレット様はそのお人柄らしい返事をされました。

 私も十人の魔族も、その答えに、魔族らしい答えに心から感動しました。

 他者と争うのを嫌い、優しく穏やかに暮らすのが魔族の本質です。

 最初の十人もそんな方々です。

 直ぐに納得されました。


「分かってくれたかい?

 だったら次の百人を蘇生しよう。

 これに成功したら、君達には百人に教育を施してもらう。

 教育が終わったら、君達には大陸中を探索してもらいたい。

 君達のように地帯奥深くに冬眠している者達。

 大陸の各地に隠れ住んでいる魔族の末裔。

 それが終わったら他の大陸の探索をしてもらいたい。

 いいかな?」


「「「「「はい!」」」」」

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