第2話

「朕は大魔王エーミールである。

 余の生贄として捧げられた娘テレーザ。

 余を崇め称えよ!

 さすれば命だけは助けてやる」


 微妙です。

 眼の前にいるのが本当に大魔王だとしたら、全然怖くありません。

 服装が頓珍漢すぎます。

 この服装が魔界の流行なのでしょうか?

 人間の社交界でこんな服装をしていたら、嘲笑われてしまいます。


 それに、全く何の魔力も感じられません。

 魔族に比べれば微弱としか言えない人間の魔力ですが、そんな人間の魔法使いですら、魔力のない人間を威圧するのです。

 

「あのぉ大魔王様。

 大魔王様から全く魔力を感じられないのですが、本当に大魔王様なのですか?」


「なんと無礼な!

 朕を魔力を漏らす未熟で惰弱な人間を基準に計るでない!

 魔族は魔力を漏らすようでは一人前とは言えぬのだ。

 それほどの巨大な魔力であろうと、ほんの少しも漏らさぬようになって初めて一人前なのだ!」


「それは、失礼な事を申し上げました。

 卑小浅慮な人間の言葉をお許しください」


「ならば余を褒め称えよ。

 褒め称えれば許してやる」


「申し訳ありません、大魔王様。

 愚かな人間には何もないと褒め称えることができないのです。

 褒め称えるべきところを示していただけませんか」


 服装のセンスは褒めようがないからね。

 まあ、顔は眉目秀麗ですから、ほめる事はできますが、そんな事は望んでいないでしょうしね。

 他にも白銀の髪は神々しいほど美しいですが、神々しいと表現したら怒られてしまいそうです。

 濃血色の瞳は怖いくらい美しいですね。

 引き込まれそうなくらい魅力的でもあります。

 濃紫色の肌は明らかに人間ではない事を証明していますが、顔や瞳とバランスがとれていて、とても美しく感じます。

 でもその全てが頓珍漢な服装で台無しになっています。


「ふん!

 人間は頭が悪すぎる。

 ひと目朕を見ればいくらでも褒め称えるところが現れているであろう。

 まあ仕方がない。

 相手が卑小で愚かな人間だからな。

 なにを見せて欲しいのだ?

 望みを申してみよ」


 そんなことを言われても、なにができるか言ってもらわないと、お願いしようがないよ。

 人間を頭が悪いといっていますが、大魔王の方がよほど頭が悪いです。

 ですが、どうせ生贄にとして殺されるのです。

 望みを全てかなえてもらわないと損ですね。


 今の私の望みといえば、復讐しかありません!

 王太子はもちろん、父上と私を陥れた者全員を殺してやりたいです。

 アーバスノット公爵家のフィリップ。

 カークランド侯爵家のアダム。

 パーラメント侯爵家のルーカス。

 ジオノット伯爵家のヤクブとトマス。

 国王のデイヴィッド。

 謗れ誰よりもアンナ!


 全員殺してくれといってもかなえてくれるのでしょうか?

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