第3話

「なんだと?

 なんとつまらんことを言う。

 その程度の事を朕にやらそうとは、身の程を知れ!

 その程度の雑用は、下級悪魔の仕事ではないか!

 生贄娘を陥れた相手への復讐などという、些末な仕事は朕に相応しくない!

 もっと他にないのか、他に!

 神々を滅ぼせとか。

 新し世界を創り出せとか。

 この世界を滅ぼせとか。

 もっと派手で華やかな願いがあるであろうが?」


 困りました。

 本気で言っているのか頭が悪いのか、判断に苦しみます。

 ですが、本当にそれだけの力がないと言い切れないのです。

 だから、家族や家臣領民が生きている世界や大陸を滅ぼしてくれなんて、冗談でも言う事はできません。


「いや、大魔王様。

 そんな事は困ります。

 私は生贄になっても、家族や家臣領民は残るのです。

 大魔王様にも家族や配下がおられるでしょ?

 彼らを巻き込み死なすような願いはされないでしょ」


「まったく!

 人間は口が達者で腹が立つ!

 いちいち朕の言葉に逆らいおって!

 願いがないと言うのならもうよい。

 生贄として処分いたすからそれでよいな?」


「いえ、それは困ります。

 大魔王様も困るのではありませんか?

 卑小で愚かな人間に、力がないのを誤魔化すために、できもしない大きなことを言って誤魔化したと思われて死なれたら、死後の世界で、大魔王様が無能で嘘つきだという悪い噂が広まりますよ」


 危ない、危ない。

 せっかく恨みを晴らせる好機を得たのです。

 それをうまく利用してこそ貴族令嬢です。

 この機会を無駄にしてしまうようでは、ボースウィック公爵家の教育が悪かったという事になってしまいます。


「本当に口ばかり達者な生贄娘だ!

 上手く言いくるめて、朕に下賤な仕事をやらそうと考えているのであろうが、その程度の事はお見通しじゃ。

 朕は人間に利用されるような愚か者ではないぞ」


「それは申し訳ございます。

 婚約者と主家に裏切られ、恨みを抱いた卑小で愚かな人間でございます。

 大魔王様のような、偉大な方に願いをかなえていただくような者ではありません。

 ですからここは視点を変えさせていただいて、先ほどの私の些末な願いをかなえるのにふさわしい、配下の悪魔を派遣してくださるというのではどうでしょうか?

 人間にとっては信じられないくらいの力を駆使する悪魔が、大魔王様の配下だと分かれば、私の心の疑念も晴れ、死後の世界で大魔王様の悪い噂が広まらないと思うのです」


「……ならん!

 それはならんぞ!

 朕は生贄娘に力を見せてやると言ったのだ。

 それを配下の悪魔に任せるなどできぬ。

 朕自信が生贄娘の願いをかなえてやる」


 言ってることが支離滅裂でついていけない。

 悪魔の思考回路はどうなっているの?

 何か基準になる考えがあるのかな?

 それともその時その時の気分次第で言ってることがコロコロ変わるのかな?

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