第33話

 私はマクリントック精霊王国の建国を宣言しました。

 王家に思うところがないとは言いません。

 ですが、精霊様の力を攻撃に使うのは間違いだと思うようになりました。

 精霊様が人を殺したいと思っておられるはずがありません。

 だから、無視することにしました。


 それで済んだと思ったのですが、そうはいきませんでした。

 ベリュー王家王国に臣従していた貴族士族が、マクリントック精霊王家に仕えたいと使者を送ってきたのです。

 困りました。

 本当に困りました。


 私はベリュー王家と敵対したいわけではないのです。

 戦争など起こしたくはないです。

 精霊様に人殺しをさせたくはないのです。

 ですが、貴族士族の気持ちも分かるのです。

 彼らはとても不安なのです。


 貴族士族は、他国の侵攻をなにより恐れているのです。

 精霊王国とベリュー王国の戦争も少しは恐れていますが、それ以上に、力を失ったベリュー王国を狙って他国が侵攻してきた際に、自分たちが滅ぼされることを恐れているのです。


 私は悩みました。

 なにを一番大切にすべきかを悩みに悩みました。

 それを救ってくださったのもベヒモス様でした。

 ベヒモス様が教えてくださったのです。

 この世界には両属という主従関係があることを。


 私はベリュー王国に使者を送りました。

 大切な家臣が害されるのが怖かったので、近隣の貴族家に使者を送って、彼らにベリュー王国への書簡を預けました。

 ベリュー王国に仕える貴族士族に、精霊王国にも同時に仕える事を許すようにと。


 この時には覚悟を決めていました。

 この状態でベリュー王家が馬鹿な決断を下すようなら、アオかアカに頼んで、ベリュー王家を皆殺しにする心算でした。

 別に版図を広げたいわけではありません。

 ですが、私の決断次第で防げる戦争に民が巻き込まれて死ぬことが、我慢できないのです。


 今度はベリュー王家も判断を間違いませんでした。

 貴族士族の両属を認めたのです。

 現実を認めたのか、オリバー王太子を私に殺されたことで諦めたのか、私の力に恐れをなしたのか、分かりませんし分かる必要もありません。

 私は、私の手で救える人を助けるだけです。


 そして今私はとても幸せです。

 多くの難民が集まってきますが、みな飢えることなく暮らしています。

 地下ダンジョンは富をもたらしてくれますし、荒れていた地上も豊かな農地に変貌しています。

 なにより私の腕には、愛しい我が子がいるのです。

 私とジョージは子供を授かったのです。

 少し不満があるとしたら、ジョージが子供を溺愛する事でしょうか。

 女王として、子供の教育には手を抜くことは許されないのです。

 愚かな王太子に育てるわけにはいかないのです。

 今晩はジョージにお説教しなければいけません。

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る