第17話

「大丈夫か、イザベラ!

 私が来たからには何の心配もいらないからな!」


「はい、ルーカス皇太子殿下。

 心強いです!」


 皇太子殿下が慌てて私の部屋に飛び込んでこられました。

 ジョセフが頭を抱えかねない表情を浮かべていますが、理性を総動員して耐えているようです。

 まあ、確かに、ジョセフの立場ではそうなります。

 私なんかよりも、皇太子殿下の方が遥かに優先度が高いのです。


 私は皇太子妃に選ばれていますが、皇族の血は流れていません。

 たとえ死んでも代わりはいくらでもいるのです。

 ですが皇太子殿下は違います。

 かけがえのない方なのです。

 皇太子殿下が亡くなられるようなことがあれば、皇国は大きく揺らぎます。


 だから皇太子殿下の護りは私よりもはるかに厳重です。

 常にいる部屋や公式行事で使う部屋は、想定できるありとあらゆる事態に備え、鉄壁の防御が施されています。

 唯一想定よりも弱くなっているのは、側近や護衛の質です。

 皇太子殿下が最も信頼する側近と護衛は、皇太子殿下の強い意向により、私の側近や護衛に配置転換されているのです。


「皇太子殿下。

 狙われているのは妃殿下です。

 ここにいると皇太子殿下まで巻き込まれてしまうかもしれません。

 自室に戻っていただけますか」


「そんな事は分かっている!

 分かっていてここに来たのだ!

 ジョセフが皇太子である私を優先する気持ちは理解している。

 だがそれは認めん。

 私はイザベラが大切だ。

 イザベラを死なせるくらいなら、私が盾となって死ぬ。

 その覚悟を理解して、イザベラと私を護れ!

 分かったな!」


「御意」


 幸せです!

 私は本当に幸せ者です。

 こんな幸せが私におとずれるとは思ってもいませんでした。

 私なんて、誰にも顧みられることなく、野垂れ死ぬのだと思っていました。

 ルーカス皇太子殿下から愛を受けるだけでは駄目です!

 私も愛を返さなければいけません!


「ジョセフ殿。

 ルーカス皇太子殿下が優先してくださった私から厳命です!

 私よりもルーカス皇太子殿下を優先してください。

 のちにジョセフ殿がルーカス皇太子殿下に厳罰に処せられることがあろうと、皇家皇国に仕える臣下に相応しい行動をしてください!」


 私の言葉を聞かれたルーカス皇太子殿下が、私の方を見て微苦笑されました。

 でも直ぐに、満面の笑顔を浮かべてくれました。

 私の想いが届いたのだと思いたいです。

 ジョセフ殿も会心の笑みを浮かべてくれているように思います。


「ご安心ください。

 両殿下を幻滅させるような事は致しません。

 みな聞いたな!

 両殿下の側仕えと護衛の面目にかけて、刺客を寄せ付けるな!」


「「「「「おう!」」」」」


 

 

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