第18話追放47日目の出来事

「出してよ!

 入れてよ!

 助けてよ!

 お願いよ!」


 国境には多くに人がいた。

 だが一人もタートン王国から出られないでいた。

 他の国の人間は出入りできるのだが、タートン王国の人間は誰一人国境を越えられず、諦めきれない人達が、関所を兼ねた軍城から溢れ、国境に沿って横へ横へと広がり、ひたすら国境に穴がないのか探し回っていた。


「守護神様のお怒りだ!

 全て王太子と国王の悪行のせいだ!」


「そうだ、そうだ!

 全部王太子と国王が悪いんだ!」


「王太子と国王だけじゃねえ。

 貴族の連中も一緒になって聖女様を虐めやがった。

 貴族どもも許せねえ」


「そうだ、そうだ。

 王国貴族の連中のせいで、俺達がこんなに苦しまくちゃならねええんだ!」


 あちらこちらで王侯貴族に対する怒りが勃発した。

 追い込まれて、仕方なく故郷を捨てて逃げ出したのに、守護神の怒りが激し過ぎて、国から逃げ出すことすら封じられたのだ。

 流民となった人々の、怒りと絶望感は計り知れないものがあった。

 その絶望感が、同じように逃げ出そうとして、軍城や街や村の高級宿に宿泊していた貴族士族一向に向けられた。


 凄まじい襲撃だった。

 多くの人がなりふり構わず襲撃した。

 自分達が反撃され殺される事すら頭から飛んでいた。

 貴族士族が武器を持ち、少々の訓練を受けていようと、数の暴力には勝てない。

 暴徒に飲み込まれて、肉片となるほどの攻撃を受けて死んでいった。


 最初は純粋な怒りによる襲撃だった。

 だがそこに性根の腐った者どもが加わる。

 貴族や士族の令嬢を襲う欲望に取りつかれた者。

 貴族士族の持つ金銀財宝を奪う欲望に取りつかれた者。

 この混乱に乗じて、何の罪もない女子供を襲い獣欲を満たそうとする者。

 同じ庶民の商店を襲い、他人の財貨を奪う下劣な者。


「駄目だ、そんな事をしたら俺達まで守護神様に天罰を受けるぞ。

 絶対に止めるんだ!

 お前達も止めるんだ!

 止めないと俺達まで天罰に巻き込まれてしまうぞ!」


 理性を持ち、最後まで暴動を止めようとする者もいた。

 だがそんな者は極少数だった。

 多くの者が、この機会に乗じて他人から奪う事だけを考えてた

 極少数の善人は、愚かで欲深い普通の人間に殺されてしまった。

 そして更に最悪の噂が広まってしまった。


「守護神様の天罰を受けた者は老化していると聞いたぞ。

 守護神様のお怒りを解くには、天罰を受けた者を殺した方がいいんじゃないか?」


「そうだ、そうだ。

 守護神様の天罰を受けた者を許すな!

 老化した者を殺せ!」


 老人狩りが始まった。

 最初は完全に老人に見える者が襲われ殺された。

 共に貴族士族を襲った仲間だった者でも、容赦されずに殺された。

 完全に老人に見える人々が殺された後、少しでも老人に見える者が殺された。

 全てはテーベの思惑通りだった。

 二面性を持った月神テーベの暗黒面が露になっていた。

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