第21話

「今日は急に来てしまってすまないね。

 どうしても急いで話したいことがあってね。

 どうか気を悪くしないでくれ」


「いえいえ。

 アーサー王子を城に迎えられて光栄でございます」


 アーサー王子は平静を装っておられますが、内心の恐怖感を隠せていません。

 護衛の近衛騎士たちの中には、カチカチガタガタと板金鎧が音を立てるほど震えている者までいますが、それは仕方がありません。

 天虎のアカとアオが、迷惑な客を睨みつけているのです。

 近衛騎士たちのわずかな動きにも反応して、唸り声をあげるのです。


 本来なら、アーサー王子との謁見に、聖獣とはいえ獣を同席などさせられません。

 ですが、私でも、アカとアオを止めることなどできません。

 私にわずかでも危険があると感じたら、アカとアオは私の側を離れません。

 もしかしたら、私の本心をくんで、アーサー王子を脅してくれているのかもしれません。


 そんなアカとアオの行動に、ジョージはご機嫌です。

 ジョージは最悪の状況を想定してくれているのでしょう。

 いえ、私を独占したいのでしょう。

 うれしいような、恥ずかしいような、何ともいえない気分ですが、確かにアーサー王子が私にプロポーズする可能性があるのです。


「あ、オホン。

 行儀が悪くてすまないな。

 近衛騎士団とは言え、伝説の聖獣、天虎と会うのは初めてだからな。

 喜びのあまり興奮してしまっているのだ。

 見逃してくれるとありがたい」


「はい、分かっております。

 私の家臣たちも、最初は興奮しておりました。

 なにも気にしないでください」


 どんどん恐怖による鎧の音が大きくなるのです、アーサー王子も言い訳しなければいけない状態になってしまいました。

 

「それで、今回来させてもらったのは、オリビア嬢にお願いがあるのだ。

 どうか聞いてもらえないだろうか?」


 私を護るために背後に立ってくれているジョージが、明らかに緊張したのが分かります。

 いえ、緊張というよりも、臨戦態勢に入った状態ですね。

 とは言っても、直ぐにアーサー王子に斬りかかるとは思えません。

 ですが私に対する恋心が日に日に大きくなっているのは、私には手に取りように分かります。

 アーサー王子があまりに変なお願いをすれば、ジョージが切れてしまうかもしれませんから、変なお願いはしないで欲しいモノです。


「実は、オリビア嬢の縁談なのだ。

 率直に聞くが、オリビア嬢は余を婿に迎える気はあるか?

 ああ、そう敵意を向けないでくれ、ジョージ。

 君がオリビア嬢に恋している事は知っている。

 オリビア嬢がその気持ちを受け入れる気でいる事も、マクリントック公爵がそれを認めている事も知っている。

 だが君もマクリントック公爵も貴族の事はよくわかっているはずだ。

 今のオリビア嬢の事を無視できる王族も貴族も一人もいない。

 どうだろうか。

 政略結婚の相手として、余の事を真剣に考慮してもらえないかな?」

 

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