第14話追放43日目の出来事

「急げ、休むんじゃない!

 もう少しの猶予もないんだぞ!」


 王都から続々と人が出て行っていた。

 いや、王都だけではなく、この国中の人達が、ひたすら南に向かって逃げていた。

 タートン王国と領地を接している国は大小七つある。

 だがどの国も自国民を養うだけで必死だ。

 どの国も守護神に護られている以上、領地は限られているのだ。

 それ以前に、守護神の力以上の領地を得ることができない。


 だが、守護神に護られていない国があったらどうだろうか?

 攻め込み、富を奪う事を躊躇うだろうか?

 自国民が、親兄弟が飢えている時に、神の守護を失うような、愚かで不信心な国や人間に遠慮するだろうか?

 少なくともこの世界には、そんな国も指導者もいないのだ。


 だから亡国の民ができる事は一つしかない。

 他国が攻め込んでくる前に、少しでも慈悲深い神と契約している国に逃げるのだ。

 この世界の民は、明るく振舞っているようでいて、常に心に不安を抱えている。

 王族が神族との契約を破り怒りを買う事を。

 その時が来たら、前もって決めていた国にひたすら逃げるのだ。


 だがそうはいっても、なかなか決断できるモノではない。

 今迄の暮らしを捨てて、全てを捨てて、奴隷になる事を覚悟で国を捨てるのだ。

 過去幾度も繰り返された亡国の歴史でも、多くの者が逃げ遅れて死んでいった。

 今回も、逸早く王都から逃げだす者と、未だ踏ん切りがつけれない者がいた。


 だが、北に住む者達は、ほぼ全員逃げていた。

 貴族士族は民よりも事情に詳しいので、癒しの聖女が理不尽な処分を受けた時から、逃げる準備を整えていた。

 中には領民思いの領主もいて、詳し事情を説明して、逃げるように指示した。

 その話が瞬く間に北方に広がり、猫の子一匹いない状態だった。


 なぜそこまで北方の貴族士族が素早く逃げたかと言えば、隣国が神と結んだ契約が恐ろしかったからだ。

 人間が、ろくに作物も育たない過酷な北の地で暮らすのは、普通は不可能だ。

 だから、どれほど厳しい条件であろうと、神と契約しなければい生きていけない。

 それが例え毎年一万人の人間を生贄に捧げろと言う神であってもだ。


 守護神に護られていない国や土地があれば、攻め込んで殺せばいい。

 だが、周囲が全て守護神に護られた国なら、自国民から生贄を出さなければ、何の実りも得られず、国民すべてが死ぬしかないのだ。

 だが神も残虐ではあっても馬鹿ではない。

 毎年定期的に生贄は欲しいのだ。

 生贄に捧げる一万人の人間を増やせるくらいには、実りを与えてくれるのだ。

 だから極北の国の民は、血の涙を流す想いで、祖父や祖母を、時には病で弱った親兄弟姉妹子供を生贄にするのだ。

 そんな彼らから見れば、神との契約を破るような愚か者達は、身代わりの生贄にしてもなんの痛痒も感じない愚か者でしかない。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る